12人が本棚に入れています
本棚に追加
作戦決行までの間は、それぞれが準備期間に入る。
俺は情報待ち。
できれば先行して街に入りたいところだけど、勝手に動くなと鬱金に釘を刺されている。
手持無沙汰を慰めるのは、命の水でしょう。
医務室からこっそりといただいてきた消毒液に、果汁と炭酸を混ぜた代用品、だけどね。
水筒を片手に屋根に上がる。
遊撃隊は過ごしやすいけれど、時々息が詰まる。
「……!」
「…」
階下からぼそぼそと話声がする。
多分、真下は鬱金の部屋。
デバ亀になりたくもないしなる気もないけど、この場合は仕方ないとこの場で息をひそめるのが正解でしょう。
ゴロンと屋根に寝っ転がり、ちびりちびりと水筒の中身を舐める。
ひそやかだけれど忙しない声が聞こえてきて、ああ、やっぱりなと俺はひとりごちる。
鬱金は飼われていると思っていたんだ。
あんなにやさしい性格の男が、汚れ仕事をする。
血を吐くような想いを押し隠して、人の命を奪う命令を下す。
それはすべて、自分が愛する人のため。
『手を汚すのは一部の人間だけでいい』
なんて甘ったれた言葉。
その一部の人間に選ばれた人間は、どうなる?
そう思ったこともある。
けれど半年過ごせば、理解も進む。
本当によく人を見て選んでいるよ、あんたは。
俺は誰かに沿わなければ、どこまでも流れていく人間で、今はあんたを仮の主だと思ってしまっている。
あんたが泣かないように、俺に何ができるのか、考えてしまう。
俺はあんたの一番にはなれない。
あんたは俺を飼わない。
それが都合がいい。
「またこんなところで、そんなものを……」
気配を殺して同僚が屋根の上にやってくる。
「リン」
元はよその国から渡ってきたのだという彼の一族は、結束の固い商人の一族として、ごく一部の人間に知られている。
俺が知っていることを、リンも知っている。
お互いに、どんな風に生きてきたかを、なんとなくわかりあっている。
「部屋にいったら、いなかったのであたりをつけてきたのですよ……もう、出たのかと思っていました」
「そうしたかったんだけど、隊長に止められちゃってんの」
「そうですか」
「明日あたり、砦の平面図が手に入ったら、出るよ」
「東風」
「ん?」
呼ばれた声に顔を向けたら、存外真面目な顔で告げられた。
「どうぞご無事で」
「うん、ありがと」
「本気で言ってますよ? あなたは時々、無茶をする」
「ダイジョーブ。俺、悪運強いから」
最初のコメントを投稿しよう!