12人が本棚に入れています
本棚に追加
鋭く振るう鞭は、できれば突き刺さる角度が理想的。
けれどそうもいっていられないときには、薙ぐように振るう。
狙うは頸動脈。
後は、目。
視界を奪えば、他人は少なからず動きが鈍る。
「東風さん、次は?!」
「左手に扉があるはずです! 出た先は拓けているので、注意してください」
「爆薬出します」
「了解です」
走る。
鞭をふるう。
指示を出す。
その間にも、灰音さんが短刀を投げる。
特殊な加工をした、紅の暗器が目の前を通過した。
「油断しないで」
「ありがとうございます」
もう少し人が少ないと思っていたのだけれど、予想外に砦の中に残っている。
中庭に特製の爆弾を投げ込んで、戦力をそぐ。
これが、鬱金への狼煙にもなる。
「灰音さん、上!」
「逃がすか!!」
階段を逃げる人影。
人相書きで確認した顔に見えた。
追う灰音さんを援護する。
砦の外から、部隊がなだれ込む音がした。
よし、これでこっちのものだ。
「灰音! 東風!」
金の風が吹いた。
中庭の反対側から駆けてきた、金色。
追っていた相手の気が散って、足が止まる。
そのすきを見逃さず、灰音さんがとどめを刺した。
「間違いありません」
倒れ込みひくりと体を震わせる男の顔を確認して、灰音さんが呟く。
「ああ……ご苦労だった……ついでに、中の掃除もするぞ」
「はい」
甘っちょろい鬱金も、こんな時は頭を下げない。
全て受け止める覚悟はあるのだ。
散らした命も、命じた言葉も、すべては自分のものだと言いきって、頭を上げる。
くすむことを知らない金色。
それでも時々――いや、誰も知らないところで、しばしば。
あんたは自分の気持ちに折り合いがつけられなくなる。
だから俺たちは、あんたの代わりに前に立つんだ。
返り血は、すべて浴びてやる。
最初のコメントを投稿しよう!