出会い

2/2
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 奏太はようやく扉から離れて奥のソファへと移動した。  その背もたれに引っ掛けられているジャケットは紛れもなく、昼間白坂が着ていたものだ。それを眺めながら、なんだか落ち着かない気持ちで白坂を待った。  白坂はバスローブ姿で出てきた。彼はやはりこちらを見ず、ベッドに腰掛けるなり、照明を暗く落とした。 「悪い……、顔が見えると萎えるから」  何も見えないほどの暗闇になってしまい、ただでさえ味気なかったホテルの一室がより味気なく感じる。白坂はベッドを叩いた。 「さっさとヤろうぜ」 「いや、俺シャワーまだで……」 「なんだよ、早く浴びてこいよ」  不機嫌に舌打ちした白坂に奏太は眉を寄せた。奏太がシャワー浴びなかったのは、一緒に入ろうと考えていたからだ。なのに、白坂はそれを確認もせず、さっさと浴室へと行ってしまったのだ。相手が白坂でなければ、言い返していたかもしれない。  奏太は足早に浴室へ行った。生ぬるいシャワーを浴びながら、乾いた笑いを漏らした。 「俺……、マジでシラマとヤんの?」  呟いた言葉は水音とともに消えていく。まだ現実味のない感覚を引きずりながら、バスローブをまとって部屋に戻ると白坂はベットに座り煙草をふかしていた。 (煙草、NGって書いたのに……)  匂いがつくので勘弁してほしかった。奏太はげんなりした。ここまで来ると、帰りたい気分になってくる。 「早く来いよ」  ベットを叩いて催促した白坂に、奏太は不機嫌に答えた。 「え、もうするの?」 「時間がないんだよ」  情緒もなにもあったもんじゃない。  白坂の性急さは奏太のペースに合わなかった。奏太はもっと会話や触れ合いを楽しんでから行為に進みたかった。なんならイチャイチャするだけで挿入は、ついでぐらいで構わない。 (もう言っちゃおうかな。あんたの生徒だよって。……でも、なんか、もったいないよなぁ……)  奏太は内心迷いながら、今着たばかりのローブを脱ぐと、ベッドに座る白坂を後ろから抱きしめた。彼のバスローブの中に手を差し込んで、鼓動と体温を確かめるようにして手のひらを滑らせた。肩に引っ掛けてあっただけのバスローブを脱がせると、さらに互いの体を近づけるようにして抱きしめた。肌が触れ合う感覚が気持ちいい。奏太は瞼を閉じてその温かさを享受する。  キスをしようとすると、拒むように顔を背けられたので、代わりに首筋に唇を落とした。跡が残らないよう丁寧に背中に口付けていると、白坂が盛大なため息をついた。 「お前、こういうのが好きなの?」 「お前じゃない、ソウタ」  名前で呼ぼうとしない相手に訂正したが、相手に改める様子はない。白坂は奏太から逃げるように体を離そうとした。 「そういうのいいから」 「良くない。いきなり挿れたら痛いでしょ?」  逃げる白坂を抱きすくめるその下肢に手を伸ばした。下着の中にあったまだ柔らかい陰茎を柔らかく握ると、白坂は小さく肩を震わせた。 「……ッ……」  彼はそれ以上逃げようとはせず、耐えるようにシーツを両手で握っている。奏太は陰茎の奥にある秘部に指を伸ばすと、そこはすでに柔らかく濡れていた。 「もう……俺……、準備してるから……」  眉を寄せて切なげな声をあげる白坂は、奏太が知る彼とは別人であった。彼は四つん這いになって奏太の中心に顔を寄せた。そしてまだ力を持たない奏太の陰茎をためらいなく口に含んだ。 (……シラマが俺のを、舐めてる……)  白坂の舌遣いが慣れていることもあって、奏太の中心はすぐに勃起した。済ました顔をして自分を馬鹿にした教師が自分の性器を咥えている。その状況が奏太の加虐心をひどく煽った。  あっという間に達しそうになるのをなんとか堪え、彼の髪を掴んで口から離させる。乱暴に押し倒すと、肩を押して四つん這いにさせた。白坂の後孔は入念に慣らされ、潤滑剤で妖しく艶めいていた。奏太は避妊具を付けると、反るほど勃ち上がった陰茎を一気に根元まで埋め込んだ。 「ーーアアァッ」  白坂の悲鳴のような嬌声が室内に響く。彼はすがるようにシーツを握りしめ、背中を反らせて耐えている。軽く達したようで、中で痙攣するように奥から不規則に奏太自身を締め付けた。たまらず、奏太も小さく呻く。 「うわ……なんだよ、これ……ッ」 「ひあぁッ、アッ、やぁ……ぁッ!」  腰を打ち付けるたび、白坂は淫らに喘いだ。彼は理性も投げ出して、身体を捩(よじ)らせる。そんな姿を見て制御できるわけもなく、奏太は肌と肌がぶつかる音を響かせながら白坂を何度も貫いた。 「んぐ、ひっ……な……ぁ、ッ、んん……、乳首も、弄って……ぇ」  目に涙を浮かべて懇願してくる白坂。奏太は、彼の胸に手を回すとぷっくりと熟れた彼の乳首を乱暴に捻った。痛がって逃れようとする白坂をねじ伏せて、奥を突いてやると、ぽろぽろと涙を零しながら悦んだ。 「あぁぁッ……、それ……、イイッ、イく……イっちゃ……ーーアァァッ!」  盛大な喘ぎ声とともに、白坂は己の下腹部に白濁を散らした。それと同時に奏太も彼の体内で果てた。 (マジかよ、これがシラマかよ……)  ぜえぜえと肩で息をしながら、組み敷いた男を見下ろした。白坂は汗だくになってまだ熱っぽい目を空に泳がせていた。奏太は自身を白坂から引き抜くと、興奮を引きずったままその身体に抱きついた。 「なあ、すごくよかったよ」  しかし触れた瞬間、その身体を粗雑に押し返される。そして彼はこちらを拒絶するように背を向けるようにして起き上がった。 「悪い、急いでるから……」  白坂の一言は、奏太の興奮を冷めさせるには十分だった。白坂は黙ってベッドから出るとさっさとシャワーを浴びて、身なりを整えて出てきた。来た時となんら変わらない格好。白坂はその格好で授業をして、帰りを待つ家族の元に帰るのだ。 「……じゃあ」  帰り際、白坂はまだベッドの上にいた奏太をちらりと振り返った。その時、目が合って、奏太は息を飲んだ。 (やべ、バレた……)  しかし、奏太の緊張も虚しく、白坂は視線を戻すとそのまま部屋を出ていった。バタンと閉まる扉の音が、室内に虚しく響いた。 「気づかなかった……最後まで……あいつ……」  ーーそりゃねぇだろ、シラマ!  脳内で昼間の鈴井の声が響いた。 (……本当、そりゃねぇよ)  広いベッドの上で全裸で膝を抱えた。奏太が感じていたのはひどい絶望感だった。  セックスをして、こんなにも虚しい気持ちになったのは初めてだ。  自分は白坂に都合よく道具のように使われ、そして捨てられたのだ。自分が誰かなど気づきもせずに。 「馬鹿にしやがって」  奏太の頬に一筋の涙が落ちた。  悔しい。寂しい。虚しい。  噴き出したいろんな感情を白坂への怒りに集約させる。 「……馬鹿にしやがって」  奏太はもう一度吐き捨てると、涙が溢れる目を安っぽいベッドカバーに押し付けた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!