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Invited by the boy's appearance (少年の面影に誘われて)
ワシントン州 レイクビュー墓地 2015年5月2日 午後1時00分
香澄とマーガレットが仮眠や世間話をしている間に、飛行機はシアトル・タコマ空港へと到着した。だが彼女たちはワシントン州にあるハリソン夫妻の自宅ではなく、どこか別の場所へと向かっている――いつになくその足取りが早いことから、2人にとって重要な場所に違いない。
時折息を切らしながらも、2人はシアトルでも有名なスポットとして知られるレイクビュー墓地へと向かう。だがこの日はあいにくの空模様で、小雨が〝ポツポツ”と降り注いでいる。
シアトルは別名「雨の街」と呼ばれることもあり、年間で3分の2は雨や曇りという日もこの街では珍しくない。ほんの数日前まで日本で暮らしていた香澄とマーガレットにとって、気候の違いを実感する瞬間でもあった。〝ポツポツ”と落ちる優しい雨音が、今日も街の景色を彩っていた……
雨と緑の独特の香りが漂うレイクビュー墓地へ到着するや否や、今まで楽しそうに話をしていた2人の顔から笑みが消え、どんよりとした雰囲気を漂わせている。
「……ふぅ、あの事件からもう1年が経つのね。でも不思議ね、1年くらい前のことなのに……まるで昨日のことのように覚えているわ」
「香澄……やっぱり今日はこのまま家に帰る? 今日はお家でゆっくり休んで、明日改めて挨拶する……という形でも良いけど」
「ありがとう、メグ。でも私は大丈夫よ……逆にここまで来てお家へひき返したら、それこそあの子に笑われるでしょう?」
今にも香澄とマーガレットのため息が聞こえてきそうなほど、二人の間には重苦しい空気が漂う。そんなどこか重苦しい雰囲気に浸りながらも、事前に用意していた花束を、香澄とマーガレットはある人物の墓石へ添えた。
そして心の中で数十秒ほど黙とうをささげた後、香澄はある人物の名前をそっと呟く……
「戻ってくるのが遅くなってごめんなさい。……ただいま、トム」
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