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年端もいかない少年の自殺を間近で目撃してしまった香澄、マーガレット、ジェニファー、そしてハリソン夫妻たち。むろん彼女たちの心にも深い傷が残ってしまい、その場に居合わせた誰もが泣き崩れてしまう。
特に真面目で責任感が人一倍強い香澄にとって、トーマスの死はナイフで心を抉られるような深い傷跡を残してしまう。彼らのサポートや励ましを受け続けることによって、かろうじて落ち着きを取り戻すことが出来た――当時のハリソン夫妻たちが香澄の心のケアを行っていなければ、十中八九彼女の自我は崩壊していたに違いない。
しかも皮肉なことに、トーマスが目の前で他界してしまった数週間後に、香澄とマーガレットはワシントン大学の卒業式を控えていた。本来なら彼女たちはハリソン夫妻たちに祝福されるどころか、悲嘆のメロディを奏でる悪夢の卒業式を迎えてしまう。
心の傷を抱えながらも、マーガレットは長年の夢だった舞台女優の職をつかむことが出来た。
しかし香澄の精神は逆に悪化を辿る一方で、その後も不安定な状態が続いた。本来なら卒業後は大学院へ進学し、臨床心理士になるための勉学へ励む予定だった。
だが不安や絶望といった気持ちに押し殺されそうになった香澄は、しばらくの間生まれ故郷の日本へ帰国し、両親のもとで療養生活することを告げる。
むろんそのことを知ったハリソン夫妻たちも最初は驚きを隠せなかったものの、彼女の複雑な心境を考えると、承諾せざる負えなかった状況下にあった。
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