人肌に恋する街で～未来の声～

Recent report to Thomas(トーマスへの近況報告)

　1年前に起きた悲劇をぐっと心の中で噛みしめながらも、香澄はレイクビュー墓地で眠るトーマスへ近況報告をしていた。
――トム、こんにちは。あなたの好きなハムサンドを作ってきたから、パパやママと一緒に食べてね。でもフローラのように美味しく作れたか自信はないけど。それとね、トム……私 明後日から再びワシントン大学へ戻ることになったのよ。と言っても、正確にはフローラの助手だけどね。大学でフローラが困っていることがあるみたいだから、そのお手伝いをするのよ。

　トーマスへの近況報告を終えた香澄は、続いて彼の両親 リースとソフィーへ挨拶をする。
――リース、ソフィー、こんにちは。高村 香澄です。おかげさまで、私とメグは日本からアメリカへ無事戻ってきました。この季節は日本やシアトルともに涼しい日が多く、比較的過ごしやすいですね。そちらの気候については詳しくないのですが、きっと1年中快適な日が多いのだと私は思っています。それともう1つ――そちらでトムがお二人に色々とご迷惑をかけているかと思いますが、あまり叱らないでくださいね？　表向きは強がっていることが多いけど、本当はあの子泣き虫だから。リース、ソフィー、どうかトムのこと……よろしくお願いしますね……

　真面目に挨拶を交わす香澄とは対象的に、マーガレットは明るい口調で近況報告をしている――彼女の社交的で明るい性格が垣間見える場面だ。
――トム、こんにちは。天国でも元気にしているかな？　大好きなパパとママがいるから寂しいとは思っていないけど、あんまり二人を困らせるようなことを言っては駄目よ。私はね……つい最近日本で舞台公演を終えたばかりなのよ。そして次回の舞台公演に向けて来月から本格的な練習が始まるから、結果を楽しみにしていてね！

　天国で暮らすトーマスたちへ近況報告をしつつも、マーガレットは香澄の横顔に視線を送った。そこには白いワンピースにピンクのスカートを着た香澄の姿が映っており、そよ風にふわりとなびく黒髪のロングヘアはとても美しい。さらに黙とうをささげるその仕草1つを例にあげても、どこか気品が感じられる――香澄の育ちの良さを垣間見ることが出来る、何気ない瞬間だった。

　まさに大和撫子とも呼ぶにふさわしい特徴を持つ香澄だが、この時ばかりはどこか暗い影を落としていた。何より香澄がシアトルへ戻ってきたことによって、心の傷が悪化しないかという不安ばかりが心を支配してしまう。
――香澄、シアトルに戻ってきたこと……本当に後悔していない？　シアトルは今のあなたにとって、つらい思い出ばかりが蘇る場所だと思うけど……

　そんな懸念をマーガレットは抱きつつも、トーマスへ祈りをささげる香澄をそっと見守っている。