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テーブルに置かれた飲み物を飲みながら、一同はマーガレットが出演したお芝居のことで盛り上がっていた。そんな穏やかなムードの中で、左手にワイングラスを持っているフローラが香澄に視線を送る。
「ところで香澄――先月私があなたに伝えた例の件についてなんだけど、どうするか考えてくれた?」
そう優しく問いかけるフローラの唇の動きを読みながら、香澄はその問いかけにそっと返すだけ。
「え、えぇ……まぁ……」
マーガレットへ祝福の言葉をかけていた時とは一変して、香澄は一瞬言葉を詰まらせてしまう。自分はあまり社交的でないためか、常に明るく前へ向かって歩き続けるマーガレットの性格を、どこか羨ましいと思っているのかもしれない。
――何でメグの人生はこんなに順調に進んでいるのに、私だけ取り残されているのかしら?
そんな香澄の心の声が今にも聞こえてきそうな、リビングはどこかやり切れない空気に包まれていた。
なおフローラが香澄へお願いした例の件の内容は、次の通りとなる。
『フローラが香澄へお願いした内容について』
1 フローラの仕事が忙しくなってきたことを踏まえて、本格的に香澄へ彼女の助手をお願いした。現役臨床心理士の助手になるため、香澄がかつて目指していた夢(臨床心理士になること)への近道でもある。
2 その内容とはフローラが務める心理学サークルの臨時顧問。心理学の知識を活用出来るサークルなので、香澄にぴったりだとフローラが判断した。
3 一時的ではあるものの、大学内における香澄の立ち位置は臨時顧問として認識される可能性が高い。また2015年秋学期(8月下旬~9月)以降については、香澄はワシントン大学心理学科の大学院へ進学する予定だ。
4 ハリソン夫妻の自宅に同居することが条件となり、以前と同じように生活を共にする。同様の理由から、マーガレットもハリソン夫妻の自宅に同居することを快く承諾してくれた。
5 香澄が渡米する時期は4月末を予定しており、その間に事情を説明しつつも承諾を得ることが条件となる。
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