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これらの内容を総合的に判断して、香澄は自分自身に問いかけながら、フローラの依頼を引き受けるか否か考えている。最初は日本を離れることを寂しがる素振りを見せた一方で、長年過ごしたアメリカに対する愛着も捨てきれない様子だ。
しかも責任感の強い性格の香澄は、理由はどうあれフローラたちの力になりたい――心のどこかでそのように思っていたのかもしれない。
「久しぶりの社会復帰なので、ご迷惑をかけることもあるかと思いますが――私ワシントン大学へ戻ります!」
香澄の一言をきっかけに、これまで暗い雰囲気だった一同の表情も一変して、皆が笑みを浮かべるようになった。彼女の明るい言葉が触媒となり、それがその場の空気を和やかなものに変えたに違いない。
「香澄、本当にありがとう。あなたならそう言ってくれると、私は信じていたわ」
「……ありがとうございます。でも正直なところ……少し不安です。あなたのように私にはしっかりとした実績や経験もないので、きちんと相手の悩みを解決出来るかどうか……」
これで安心して臨時顧問を任せられると安心したのもつかの間、一同は意外な形で香澄の本音を知ることになった。
表向きは笑顔を取り繕っているが、香澄の心には今でもトーマス・サンフィールドの面影が強く残っているようだ。真面目な性格が彼女の取り柄ということもあり、自分の得意分野の中で素晴らしい能力を発揮出来ることは間違いないだろう。
しかしその一方で、一度何かの困難や壁にぶつかってしまうと、それが悩みの種となってしまう可能性も否定できない――さらに性格が真面目すぎる故に、人に弱みを見せまいとする心理が無意識の内に働きかけ、その結果ストレスを一人で抱えてしまう傾向も強い。
さらにこれまで口を閉ざしていたジェニファーやマーガレットも、新たな道を歩み始めようとしている香澄を激励する。
「香澄、親友のあなたが苦しむ姿を見るのは、私もつらいんです。私はあなたみたいに頭が良くないから、出来ることなんてないかもしれない――でもそんな私でも愚痴を聞いたり、他愛のない世間話を聞く相手になることくらいは出来ます。だからお願い、香澄。そんなに自分を責めないで――自分の世界に閉じこもらないで!」
「私を見てみなさいよ、香澄。こんないい加減な性格の私でさえ、しっかりと社会貢献しているのよ。私に出来ることがあなたに出来ないなんて、そんな馬鹿なことがあるわけないでしょう!? もっと自分に自信を持ちなさい!」
若干自虐ネタを踏まえながらも、彼女なりの方法で香澄を励まし続けている。
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