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フローラたちに後押しされたことをきっかけに、香澄はアメリカへ戻る決意を固めた。そんな香澄を激励するかのように、マーガレットは最近の彼女の生活ぶりをフローラたちへ語る。
「フローラ、ケビン、ジェン。香澄はこんな弱気な発言しているけど、彼女は今でも勉強だけは毎日しているのよ」
「ちょっとメグ――そのことは〝後で私から話す”って言ったじゃない!?」
「まぁまぁ、いいから。こういうのは言ったもの勝ちなのよ」
“相変わらずの性格ね”と頬を膨らませている。
「実はね、みんな。日本に戻ってから、香澄は新たにお薬の勉強をしているの」
「薬の勉強……ということはカスミ、君は心理学だけでなく薬学の勉強もしているのかい?」
ケビンの素朴な問いかけに、香澄は少し照れ臭そうにしながらも頷いた。“臨床心理士が薬の処方を出来ないことは知っていますが、それでも何かの役に立つと思っています”と、続けて補足説明をしてくれた。彼女なりの臨床心理士として働く未来像が、しっかりと描かれているようだ。
――最初は臨床心理士の夢さえ諦めかけていると思っていたけれど、その傾向はないようで安心したわ。むしろ夢に向けた情熱は1年前以上……かしら?
悲しみに浸る香澄と1年前に別れたフローラは、彼女が自主的に心理学を勉強していることが内心信じられなかった。それどころか新たに薬学を勉強していると知った時には、自分の耳を疑っていた。
しかし本人の口から心理学に対する情熱を再確認したことによって、一途に夢をつかもうとする香澄の姿がフローラの瞳に映っているのかもしれない。
いずれにしても、約1年間におよぶ日本での療養生活も無駄ではなかったことが、フローラたちはこの場で確認することが出来た。何より香澄自身が生きる希望を捨てていない――その真実が分かっただけでも、今の彼女たちにとって最高の喜びでもあった。
そして独学ではあるものの、香澄が薬学を学び始めたその真意とは一体何なのだろうか?
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