Thomas's feeling and Kasumi's sin(トーマスの気持ちと香澄の罪)

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Thomas's feeling and Kasumi's sin(トーマスの気持ちと香澄の罪)

 香澄とマーガレットが寂しげに〝トム”とつぶやいた相手とは、トーマス・サンフィールドのこと。二人にとって忘れることが出来ない事件を起こした人物でもあり、そして彼女たちにとって忘れることが出来ない存在でもある……  話は彼女たちがまだ大学生だった頃にさかのぼる――当時の香澄は心理学、マーガレットは音楽理論を専攻しており、ハリソン夫妻からの個人的な依頼という形で、幼くして両親を亡くした少年 トーマス・サンフィールドのを行うことになった。  だが1人では負担が大きすぎると判断した香澄とマーガレットは、親友のジェニファーにも協力を求めた。臨床心理士のフローラのような専門知識はないものの、〝出来る範囲内でなら大丈夫だよ”と香澄の提案を快く引き受けてくれた。  香澄たちの数ヶ月~数年におよぶ努力の末、トーマスも一度は本来の心を取り戻すことに成功する――しかしそれはあくまでも表面的な感情にすぎず、彼の心の奥底には亡き両親の面影が強く残っていた。  さらにそのことがきっかけとなり、トーマスはこれまで家族同然に接してくれた香澄たちに対してさえ、強い猜疑心(さいぎしん)や不信感すら抱くようになってしまう。  香澄たちの深い愛情と亡き両親への強い憧れと面影――感情の板挟み状態に陥り、ハリソン夫妻の養子として迎えられながらも、苦悩する日々は続く。しかも当時のトーマスは10歳の少年ということもあり、その現実を受け止められる心の余裕もなかった。  そうした日々を過ごしていく間に、トーマスの心は少しずつ不安と恐怖に浸食されてしまい、やがて自暴自棄・被害妄想などの精神病を発症してしまう。  そんなトーマスの本心を香澄たちが知った時には、もうすでに手遅れだった。彼女たちが必死に説得するも耳を傾けようとはせず、彼は隠し持っていた銃を取り出し、あろうことか自分の腹部に銃弾を撃ち込みしてしまう。  彼らが行ってきた心のケアがトーマスを苦しめ、年端もいかぬ少年に自殺という選択肢を与えてしまったことに対して、強い自責の念に駆られていた――特に人一倍熱心にトーマスを支えようとした香澄の心に深い傷が残るという、非常に哀しい結末を迎えてしまう。
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