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【2、昂揚】
*
窓の外の雨は、すっかり上がっていた
菅谷くんに、信ちゃんを、通称『信ちゃんの監禁部屋』に運んでもらって、私は、ドアを閉めるとため息をついてしまった。
なんか、今さら怒りがこみ上げる。
「ほんと!お酒弱いくせに、こうやってがんがん飲んで、すぐ寝込んじゃうんだから!
いい迷惑だよね!」
「…じゃあ、俺は帰ります」
菅谷くんが、そそくさと帰ろうとしたので、私は思わず、きょとんとしてしまう。
「え??帰るの?」
「帰りますよ…」
もしかして、色んな気を回してくれてるのかな?
そう思ったから、私は彼を引き止めてしまった。
「コーヒーぐらい飲んで行きなよ!あんな重いもの運んでくれたんだし、すぐ淹れるから!」
「いや、でも…」
「気なんか使わなくていいんだよ?
もはや私と信ちゃん、10年も付き合って熟年夫婦みたいだし、もう2年もセックスレスだしね!」
あんまり遠慮するから、私はついそれを暴露してしまった。
別に嘘じゃないし、ほんとのことだし…とは思ったんだけど、私の目の前で、彼はなんだか戸惑ってしまったみたいだった。
なので、私は、何も気にしない顔で笑ってみせた。
「立ってないで座って、菅谷くん」
「え…あ、はい…」
素直に座ってくれた彼に、もう一度笑ってみせて、私は、棚からコーヒー豆を出して、コーヒーメーカーに入れる。
スイッチを入れると、いつも嗅いでるコーヒーの良い匂いがした。
「コーヒー…好きなんすね」
「うん、 飲むと落ち着くから。何気にカフェイン中毒なんだよね、あたし」
歌を唄う人のせいか、彼の声は独特の響きがある、なんていうか、耳触り良いと言うか…
ぼんやりと、そんな事を考える私の耳に、不審そうな彼の言葉が入ってきた。
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