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「痛っ」 「動くなよ」 名城に注意されて、一希は黙って痛みを堪えた。 名城の部屋に帰るとすぐに傷の確認をされた。 圭人は気を利かせたのか、「飲みに行くから付き合え」と言って、何故か涼平を強引に連れ去って行った。 派手な喧嘩だった割に一希の傷は額くらいで、名城に至っては、昨日ついた頬の傷以外全く怪我をしていなかった。 床に向かい合って胡座をかき、名城は一希の傷を消毒して絆創膏を貼ってくれているようだ。 目の前で名城が咥えているタバコを摘み、自分の口へ運ぶ。辺りを包むバニラの香りがすでに懐かしい。 「なんで連絡してこなくなった?」 さりげなく聞かれたが、一希は答えられずにタバコをふかし続けた。無言のまま続けられた手当てが終わり、一希の額に向けられていた視線が一希を捕らえる。 「…彼女がいるって知ったから」 「彼女? 俺に?」 顔を顰めた反応がアカリとそっくりで、一希はつい笑ってしまった。 「なに笑ってんだよ」 「なんでもない。違うってもうアカリさんに聞いたけど」 「アカリ? あいつが彼女だと思ったのか? バカ、あいつは妹だよ」 「え」 「顔も似てるだろ? 不本意だけどな」 名城は一希が純粋にアカリが妹であることに驚いたと思っているだろうが、一希は本当の事を教えられたことに驚いていた。アカリの話では、2人とも誰にも打ち明けていない様子だった。 「…アカリさんて、幾つ?」 「同い年。俺の方が3カ月年上」 「3カ月…」 「最悪だろ、うちの親父」 一希の口からタバコを摘み、苛立ったように一口深く吸い込むと、短かくなった吸い殻を灰皿で揉み消した。 暗い目で笑う名城の姿が痛々しい。 つるんでいた仲間達と決別するきっかけなのだろうかと、名城の過去が気になったが、そのうち話してくれるだろうとも思えた。 恐らく父親のことは口に出したくなかった筈なのに、一希には打ち明けてくれたのだ。本人達もお互いの存在を中学生になるまで知らなかったとアカリが言っていた。それを知った時の心の傷が癒えていないのは、名城の表情を見れば、鈍い一希にもわかってしまった。 何か気の利いたことを言ってやりたいのに、何も思い付かずに一希は「…なんて言ったらいいかわかんねえ」と、正直に答えた。 名城は一瞬無言になり、すぐに笑い出した。 「そりゃそうだ。相変わらずストレートで安心するわ」 バカにされた気分でムッとしながら、一希は名城の笑いが治まるのを待った。 「じゃあ、音信不通になる理由はなくなったな?」 その答えは一希の中でもまだ出ていない。今のままの関係が嫌なのは変わらないのだ。 「何だよ。まだ何かあるのか?」 答えない一希の顔を名城が覗き込む。そして伸びてきた大きな手に頬を撫でられ、一希は名城を睨んだ。こんなやり方はずるいと思う。甘やかされて、何を言っても許されるような錯覚をしてしまう。そして一希はその誘惑に勝てなかった。 「あいつ、中学の頃の後輩?」 「あいつ? ああ、涼平か? そうだけど…」 「ふーん」 「なんだよ。ケンカ売られたか?」 「…有先輩って呼ばれてるんだな」 言ってから、あまりにもくだらない嫉妬だったと気付く。一希は何か言われる前にと、慌てて立ち上がろうとした。しかし名城の反応の方が一瞬早かった。 簡単に捕まった一希の体は、気付いた時にはもう名城の長い腕の中だった。背後から抱えられたので、顔を見られずに済むのがせめてもの救いだ。 「…離せよ」 そう言いながら、この場所を自分だけの物にしたいと感じている。言葉とは裏腹に動く気がないのはバレバレで、名城の腕が更に力強く抱きしめてきた。 「…やだよ。ジャストフィットだろ?」 以前、身体の相性を評した言葉を使い、名城がわざと甘い雰囲気を醸し出しているのはわかっている。流されまいとせめてもの抵抗で無言を貫くが、そんな一希の身体は簡単に持ち上げられてベッドに押し倒された。 「離せって…っ」 身体を捻って抵抗すると、両腕を掴まれてシーツに押し付けられた。覆い被さってきた名城の目を見て、一希は息を飲んだ。ケンカの時ともセックスの時とも違う、真剣な眼差しで見つめられている。 「お前を、俺だけの物にしたい」 「…嫌だ」 ずっと知りたかった名城の本音に、一希は首を振った。一希の望みは、名城に独占されることではない。 「あんたが、俺だけの物になるんだよ」 一瞬、虚をつかれたような顔をした名城だったが、すぐに満足気な笑みを浮かべた。 「やっと言ったな。すぐヤキモチ妬くくせに、意地を張りやがって」 「うるせえ」 まだ仏頂面の一希を、名城が面白そうに見下ろしている。一希はその余裕そうな表情を睨みながら、首筋に手を伸ばした。 そのまま引き寄せ、唇を重ねる。 優しく触れるだけのキスが繰り返され、焦れた一希は舌を伸ばし、縋るように広い背中を撫でた。すぐに絡まってきた舌は、一希の口内へと入り込み、我が物顔で中を舐め回す。 キスだけで身体が熱くなり、硬くなったモノ同士を擦り合わせるように、名城の腰を引き寄せた。緩やかに腰を動かされると、その先の行為を期待して身体はどんどん熱くなっていった。 名城の手が一希のシャツをはだけ、素肌を優しく撫で回すので更に全身に熱が溜まっていく。 キスをしながら服を脱がされ、名城が自分の服を脱ぐためにキスを中断されると、一希は待ちきれずに、誘うように両膝を開いて自身のペニスを扱いて見せた。 「こら。自分で弄るんじゃねえって、いつも言ってるだろ」 「だって、もうこんなんなってる」 先端から溢れる汁を指先で掬って見せる。すると、名城が意外な行動に出た。 「え、ちょっ、そ、それはいい…!」 一希のペニスに顔を寄せようとした名城の頭を寸前で止めた。 「なんでだよ。舐めさせろ」 「やだって」 「だからなんで」 「…絶対、意地悪するだろ。イキそうなのにイカせてくれないとか、恥ずかしいこと言わせるとか…」 「何決めつけてんだよ。俺がフェラすんの初めてだろ」 初めてでも、いつものセックスの傾向からわかる。名城は虐めて虐めて可愛がるのだ。暫く2人は睨み合っていたが、不意に名城が一希のペニスを握ってきた。 「あっ」 今度は止める間もなく突然口に含まれてしまった。そしていきなり一番感じる裏筋をねっとりと舐めあげられた。 「は…っ」 動きそうになる腰を押さえつけられて、行き場のない快感が声になって吐き出される。 「あ、ん、や、だめ、なしろさ、口の中あつい…っ」 久し振りに体温に包まれる快感は怖いくらいだった。そんな中でヌルヌルと蠢く舌は、まるで意志を持った生き物のように絡み付いて離れない。 もうイキそう、というところで案の定解放されてしまい、安堵と苛立ちの混ざった複雑な気持ちで名城を睨んだ。 すると、意地悪く笑っているだろうと思った名城は、真面目な顔でこちらを見上げていた。 「有」 「え?」 「有って呼べよ。名城さんは禁止」 「な、なんで急に」 「いいから。ほら」 「あっ」 なんの前触れもなく、後ろに指が差し込まれた。いつの間にか潤滑剤を纏った指が、クチュクチュと音を立てながら出入りする。 「あ、あ」 いつもはなかなか良いところを擦ってくれない名城だが、今日はすぐに前立腺を刺激してくる。 「ふあっ、そこ、だめ」 中を刺激されると、一希の腰は次の快楽を求めてクネクネと動き出す。 「も、入れて、入れて…っ」 一希がねだっても、名城は無表情に指を動かし続けている。いつもは言葉で焦らすのに、今日はそれもない。ただ悶える一希を見下ろしているだけだ。 「名城さん…っ」 「有」 そこでようやく名城の狙いがわかった。やっぱり今日も恥ずかしがる姿を見られるのだ。 今回のはいつもよりは簡単なことだし、さっさと言ってしまえとも思うのに、ヤキモチを妬いていたことを思い出すとなかなか素直になれない。 しかし名城の指はどんどん動きが激しくなっていく。それでも名城の性器ほどの快感は得られず、我慢を強いられている一希の目には涙が浮かんでくる。 「泣くのが癖になってんな。その顔が余計に俺を煽ってんだぞ。わかってるか?」 もちろんわかっている。一層虐められてしまうのもわかっているが、イヤイヤと言っていても、本当は嬉しいのだ。あの手この手で一希を攻め立てて、名城が甘い目をして可愛がってくれるのが嬉しくてたまらない。 「ほら、これが欲しいだろ?」 入り口に名城の大きなペニスを押し付けられる。 「っはやく…っ」 「誰のが欲しいんだっけ?」 頭を撫でながら耳元で優しく囁かれて、一希は覚悟を決めた。どうせ勝てるはずがないのだ。 「ゆ、う」 「あ? 聞こえねえよ。誰の何が欲しいんだ?」 「も、バカァッ、有のっ、有の入れて」 「俺の、何?」 「も、むり。やだ。早く…っ」 いよいよ我慢できずに首を横に振って拒否すると、名城も笑って諦めてくれた。 「しょうがねえな。次は言わせるぞ」 「あ…っ」 もう慣れ親しんでいると言ってもいい、名城の性器がゆっくりと押し入ってくる。それだけで中が痙攣しているのが、自分でもわかる。 「すげえビクビクしてんな…。まだイクなよ?」 「あ、あ、あっ」 言われたら余計に堪えられなくなって、まだ最後まで入りきらないうちに放ってしまった。 「こら、一希。まだダメだって言ったろ。ますますいやらしい身体になったな、お前」 「ご、ごめ…」 名城は途中で動きを止めたまま、一希が放った物を拭いてくれる。その間、ちょっとした動きが中に響いて、もどかしい刺激が一希を震えさせる。 「さっきイッたくせに、物欲しそうに吸い付いてくるなよ」 名城が意地悪ではなく、本当におかしそうに笑い、またその振動が伝わってくる。 「有…。俺、今日、変。助けて」 あまりの快感に広い肩に縋ると、名城は顔を顰めて覆い被さってきた。 「また可愛いこと言いやがって…。助けてやるから、覚悟しろよ?」 耳元でそう言うなり、いきなり奥をズンッと突かれた。「あっ」それから一言も意地悪を言わず、名城はひたすら一希のいいところを狙って腰を打ち付けてくる。 もう意識が飛びそうな程の快感に、一希は自分が何を口走っているのかわからないくらいに乱れて泣くことしかできない。 一希の好きなリズムで中を突きながら、同じリズムで震えている一希のペニスを名城の大きな手が掴んだ。そして絶妙な力加減で扱かれる。 「ふぁ…っ、だ、ダメ、なんで?」 「いつもチンコ触れって言うくせに。本当はダメじゃないんだろ?」 「今日はダメ…っ。あ、な、なんでだよ。いつもはいくら言っても、ん、触ってくれないくせに…っ」 先程放ったばかりだというのに、すでに硬く張り詰めた性器を、名城は少しも焦らすことなく扱き続けている。 一希の蕩けきった顔を上から愛おしそうに見つめられると恥ずかしくて、一希は精一杯睨みながらその動きを止めようと手を伸ばす。 しかし、力の入らなくなった体では止められるはずもなく、過剰なまでの快感をもたらすその手を包むように添えているだけだった。 「もう無理…っ、離せって、あ、も、イク…っ。ヤダ、いつもみたいに意地悪にして…っ」 焦らされるのも嫌いではないと本音を吐露した一希を名城が笑って、手と腰の動きが止まった。顔が近付き、耳元にチュッとキスされる。 「ひゃ…っ」 「可愛いな一希。意地悪されたいのか?」 完全に征服されていることが悔しくて黙り込んだ一希だが、耳元で響く低音の囁きと、性器を包んだままの温かい掌が快感をもたらしたままで、断続的に体がビクッと震えてしまう。 「でも悪いな。今日は思いっきり感じさせてやるって、今決めたから」 「な、なんで… 」いつも怖いくらいに感じさせられているのにあれ以上があるのかと、怯えた一希を安心させるように額にキスが落とされた。 「付き合って初めてのセックスだぞ。忘れられない夜にしてやる」 言いながら見下ろす名城の目は、完全に獲物を前にした獣のそれだった。ゾクゾクと快感が走り、粘膜がキュウッと収縮した。 「…っ、素直な反応しやがって。自分が何回イクか、しっかり数えてろよ?」 そう言って、ゆっくりと腰を引いていく。 「あ、あ」 一希の正直な身体は、愛しいそれを離すまいとキュウキュウと絡み付く。 「いい子だ、一希。上手に引き止めようとしたご褒美に、最初だけ意地悪してやるよ」 「え」 ずっと一希の性器を握っていた手が簡単に離れていく。包み込むものがなくなった寂しさで、一希は甘えるように名城を見上げた。 「なに不安そうな顔してんだよ。まだお前の大好きなモノが中に入ってるだろ?」 言われると、入り口で動きを止めている名城のペニスが途端に欲しくなる。「…もっと」 「んー? ここで焦らされるのが好きなんだろ? いつ突っ込まれるかわからないのがいいんだよな?」 「や、はやく」 先程、意地悪されたいとねだったのも忘れて、一希は甘えるように両足を名城の腰に巻き付けた。 すると頭上で名城がフッと笑う。 「すげえな一希。この中、どうやって動かしてんだ?」 「ふぁっ、あ、あ」 どうやら一希の粘膜が複雑な動きをしているようで、それをからかうように名城は入り口だけを小さく擦った。もっと奥へと引き込みたくて、一希の身体は無意識に動く。 両腕と両足で名城の身体を引き寄せ、粘膜は自分でもわかるほど強い力で名城の性器に吸いついた。 それに応えるように名城が一希の腰を抱え込む。そして耳元に唇を寄せてきた。 「一希。俺以外の奴とこんなことするなよ?」 初めて見せられた名城の独占欲に、一希は驚いて言葉を失った。 父親の不貞を知った中学生の名城は、一体何を思ったのだろう。恐らく深く傷付いたであろうその広い背中を、力強く抱き締めた。 「あんたこそ。このチンコ、他の奴の中に入れたら、絶対に俺の中に入らせねえからな」 なんの飾り気もない一希の表現を、名城は嬉しそうに笑った。 「ストレートなのはいいけど、もうちょっと可愛い言い方できねえのか」 そう言って、ゆるゆると腰を動かし出す。焦らす動きに耐えられず、一希の腰も自然と動き出す。 「あ…、ん、もっと」 ねだった途端、いきなり名城の動きが大きくなった。戸惑っているうちに、あっという間に高みへと押し上げられてしまう。どんどん早くなるリズムに合わせて、一希の声も高くなっていく。 「あっ、イク、イク…っ」 「イけよ。何度でもイカせてやる」 「ああっ」 絶頂と同時にキュウッと収縮した粘膜が、その奥に温かい物を放たれたのを感じて、搾り取るように更に収縮する。 「ハアッ、ン、たくさん絡み付いていい子だな、一希」 「有の…、もっと欲しい…」 「俺の何が欲しい? チンコか? 精液か?」 「どっちも。どっちも俺の…」 甘える一希を更に甘やかすように、名城が微笑んで見ている。それにつられて、一希も恥ずかしさを忘れて全身で甘える。 「どうされたい? 意地悪してやろうか?」 そんな風に聞いてくるが、意地悪されたって結局は甘やかされているのだ。一希はもう何も考えず、ただ名城が与える快感も羞恥も愛情も、全てをただ感じていたかった。 「有の好きにして…」 快感がもたらす涙を浮かべた目でそう言うと、中に入れられたままの性器がドクッと脈打った。 「あ…」 「覚悟しろよ、一希。本当に好きにするぞ」 さらに獰猛な色を浮かべた名城の目が一希を射抜く。 一希は無意識に名城が動きやすいように、絡めていた足を解き、大きく両膝を開いて、再び起き上がっている自身の性器を見せつけるようにした。 名城が体を起こし、一希の両膝を抱え上げて臨戦態勢を取った。されるがままに蹂躙されるのを待つことにさえ、快感を覚える。 湧き上がってくるのは恐怖ではなく愛情だけだった。
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