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「俺、モテ期が来たかも」
圭人がそんな風に言い出したのは、あのダメ男と別れてから半年程が経った頃だった。
「 へえ」
「まったく羨ましいわよね〜。この界隈じゃあ、ノンケ食いのケイって有名なんだから」
カウンターに座った一希の隣に座っているのはミランダだ。圭人はカウンターの中でママと並んでグラスを磨いている。
「あんたもそのうちいい人現れるわよ。人を妬むのはやめなさいな」
「納得いかないのよ、ママ!どうして日々美しくいるために努力しているアタシがイブに一人ぼっちなの⁉︎ 一希ちゃん、今日一晩くらいあんたのダーリン貸しなさい!」
今日はクリスマスイブだ。圭人が働くバーでクリスマスパーティーをするからと誘われ、こうして開店前から遊びに来た。名城とは夜遅くに帰ってから会う約束をしている。
「借りてどうするのよ」
「やだ、そんな事言わせないで〜。男とオンナが一晩一緒に過ごしたら、やることなんて決まってるじゃないの〜」
「図々しいオカマね! 一希、ミランダなんかより、アタシの方が安全よ〜。ほんのちょーっと貸してくれればいいのよ」
テーブル席に座って、今日のパーティーの余興の打ち合わせをしていた従業員達が、一斉に会話に参加しだした。一希は訳がわからず困惑する。
「な、なんでそんなに借りたがるんすか」聞くと、店内にいる全員がニヤニヤしながら一希を見る。
「すっごいテクの持ち主らしいじゃない。しかも絶倫でドSって! アタシも若い男前に言葉責めされたいわ〜」
「圭人!」
噂の出処は1人しか考えられない。一希が怒鳴ると、圭人はママの背中にサッと隠れた。
「ごめーん、だってあんた達がどんなエッチしてるのか、みんなが知りたいって言うから〜」
「な、だ、だからって」
顔を真っ赤にして怒る一希に同情したのか、ママが助け船を出してくれる。
「一希、代わりにケイちゃんの秘密教えてあげるわ」
「え! ちょっとママ!」
「最近、週末になるとアパートに男を連れ込んでるのよ。あんたも知ってる子」
「え⁉︎ マジで⁉︎ 誰っすか⁉︎」
「ママったら!」
「涼平ちゃんって言ったかしら。ねえ?」
「はあ⁉︎ 涼平って、あの、有の後輩の⁉︎」
「そうそう。ダーリンにも教えてあげなさいな」
「もー、名城さんにバレたら、アタシが怒られるのよ!」
今度は圭人の顔が真っ赤に染まる。一希は未だに呆然としている。
一希と名城が恋人同士になったあの夜。2人で飲みに行った時に何かあったのだろうか。
圭人は恋人と別れたばかりだったことを思うと、それもありえない展開ではないかもしれない。しかし涼平本人はもちろん、名城もそんな事は言っていなかった。恐らくまだ知らないだろう。
「なんか…、お前の周りの奴が、どんどんホモになっていくな」
「あ、そういえばそうかも。新しい扉が開けてよかったな〜? 俺のおかげで名城さんと出会ったんだから、俺に感謝しろよ! だから名城さんには内緒にして!」
「嫌だよ。速攻言うわ」
「一希〜」
圭人は涙目だが、自分達のセックスライフをバラされたのだから同情の余地はない。
この話を聞いて、名城は何て言うだろう。意外とよく笑う名城の事だ。きっとそれ程心配はせずに、一希と一緒に大笑いするのだろう。
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