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昼休みの学食で、一希は何度も携帯をチェックしていた。 圭人とケンカしてから三日。何度かメッセージを送ってみたが、一度も返事が来ない。 一希はもう何度目かもわからないため息をついて、別のトーク画面を開いた。圭人からのメッセージは来なくなったが、新しくアカウントを交換したばかりの名城とは頻繁にメッセージを交わしている。 自分達の関係は一体何なのだろう。一希は昨日の放課後も名城の家で夕飯を食べさせてもらった。 一希の家は母親と二人暮らしだ。父と離婚した母に付いてこの町に越してきたのだが、昼も夜も働き詰めの母はあまり家の事をしない。二人で生活する為に頑張ってくれている母に感謝しているし、それで構わないのだが、料理が得意でない一希は、名城に夕飯を食べに来いと誘われるのはとてもありがたい。 しかし名城も週に三日は深夜バイトに行くらしく、昨日も二人で作った夕飯を食べてのんびりした後は、バイトに向かう名城と一緒に部屋を出た。だからセックスはしていない。していないが、ふとした拍子にキスを交わす。そんな関係が出来上がっていることに戸惑いはある。だけど妙に居心地が良くて、距離を取る気にもならない。 「あれ、お前もう食い終わってんのかよ」 顔を上げると、向かいの席に腰を下ろしたのは名城だった。昼食を乗せたトレーをテーブルに下ろし、すぐに食べ始める。 「珍しいじゃん」 「あ? 卒業できる程度には顔出すよ」 「じゃなくて、女連れじゃないのが」 「なんだよ、ヤキモチか?」 そう言ってニヤニヤしている名城の足を、テーブルの下で蹴り飛ばした。 「いてっ」 「黙って食えよ」 「お前が話しかけてきたんだろ」 「うるせえ」 「ったく、乱暴だな」 ブツブツ言いながら名城が食べ始めると、二人の周囲がざわついている事に気付く。 いつも違う女を連れている名城が男と一緒にいるせいか、後輩のくせに校内一有名な先輩に生意気な態度を取っているせいか。それとも、名城の雰囲気がいつもと違うせいか。 一希も校内で見かけるだけの時は、目付きの悪い危険そうな男だと思っていた。しかし実際は面倒見もよくて、よく笑う男だった。ただ、セックスの時だけは下品で意地の悪い男になるが。 「まだ返信来ないのか?」 名城が食事している間ずっと携帯を睨んでいた一希に、食後のお茶を飲みながら名城が声をかけてきた。 「…元気ならいいんだけどさ、この前会った時、顔色悪かったから」 「人がいいな、お前は」 「人がいい? そうか?」 「一匹狼気取ってるけど、一度懐に入れた人間は無条件で守ろうとするんだろ」 わかった風な顔で人を分析している男を、思いっきり睨む。 お人好しだと思われるなんて、一希のプライドが許さない。それでも名城が平気な顔で笑っているのが憎らしい。 「相手の男には会ったことあるのか?」 「ねえよ。だから反対してるのも説得力に欠ける…」 「見に行ってみれば? こっそり」 思いがけない提案に、一希は目を見開いた。詳しい住所は知らないが、以前、圭人から送られてきたツーショットの画像を見れば、もしかしたら探し出す事もできるかもしれない 「そうか…。あんた、たまにはいい事言うな!」 テンションの上がった一希に、名城は「たまには余計だ」と苦笑していた。
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