第4章 鎖と囮

1/15
146人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ

第4章 鎖と囮

 リーマニオンに到着するまで期間の半分を、パチルは城の中で過ごした。  ルウの変身薬のおかげで、マイアン王国内の有害駆除や鉱山の採掘補助など、短期間の任務に就くこともあったが、ルウとキーロが指名で高難易度任務に駆り出されることも多かったため、まだ訓練生のパチルは連れて行ってもらえなかったのだ。  長い余暇の時間を、パチルは剣の鍛錬や魔術の練習に費やした。監督役が指名任務に出かけているせいで暇をしている訓練生はパチルの他にも沢山いたため、鍛錬の相手には困らなかった。  時折、帰ってきたキーロが稽古をつけてくれることもあったが、キーロはあまり良い師匠とは言い難かった。  確かに、一般的な武器なら大体扱えると豪語していた通り、剣も弓も槍も宮廷騎士団のトップと互角かそれ以上の実力を持っていた。しかし、剣術としてのメソットと言えばいいか、こうすれば上達するという方法論をキーロは何一つ知らなかったのだ。  アドバイスをくれたとしても「ひゅーんと振り上げて、ソイヤって振り下ろせば当たる」とか「テキトーなタイミングで突く」とか、全く参考にならない。天性の才能とずば抜けた運動神経で戦うキーロは、秀才というより天才の称号が相応しく、多くの天才同様他人に教えることに関してはからっきしだった。  魔術に関しては、もともと騎士学校で習っていた範囲で訓練生の必須魔術は使いこなせていたため、それ以上の教えをルウから受けることはできなかった。曰く「魔法生物言語の基礎も知らない素人にわざわざ教えてやる時間がもったいない」そうだ。  そこをなんとかと追いすがったパチルに、ルウは自分が昔まとめたという妖精言語基礎が書かれたノートを貸してくれたのだが、これが恐ろしく難解だった。  内容の複雑さもさることながら、書かれている解説文のほとんどが、世界一難しいとされているザルド帝国の言葉だったのだ。  ザルド語は言語体系が共通語やマイアン語と全く違う上に、休戦中とは言え敵国の言葉であるため、パチルがザルド語にふれた経験は全くない。パチルは辞書を片手にうんうん唸りながら、毎日ノートとにらめっこをする羽目になった。  不憫に思ったキーロが、途中から解読に付き合ってくれたのだが、ここでキーロは意外な才能を発揮した。パチルが一日がかりで3ページしか翻訳できなかったノートを、キーロはものの数十分で全て訳してしまったのだ。加えて、書かれていた魔術に関しても、ほぼ完璧に再現しては分かりやすく解説までしてくれた。  キーロは、ルウの魔術を見ていたら覚えただけだと謙遜したが、魔術は言わば論理の迷路のような存在だ。いくらキーロが武術の天才でも、それとこれとは全く別次元の話だ。  パチルは密かに、キーロもルウと同じくらい魔術を扱えるのではないかと疑ったが、キーロが任務で使用する魔術は必要最低限のものだけで、その真偽を確かめることは出来なかった。  そんなこんなで二ヶ月半はあっという間に過ぎ去り、メザリアはリーマニオンの首都近郊に到着した。いよいよ明日が会談の初日だ。護衛士たちは今日から任務にあたる。  パチルが部屋で荷物をまとめていると、うしろからキーロに呼びかけられてた。 「悪いパチル。そろそろ出発なんだが、俺ちょっと頭領のとこに寄らないといけねえから、代わりにルウを呼んできてくれ」 「わかった」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!