確かに、それは燻ぶり続けている

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 しかし町山君は、なおもあきらめなかった。 「今は、と言うことはかつて、由利先輩とはあったんですか?ドキドキワクワクしたことが」  言葉尻を捕らえるのは、町山君の職業病なのかも知れない。 妻曰く、塾の講師をしているとのことだった。 ――ちなみに担当の科目は現国ではなく、数学らしい。 「ないよ。そういうところが、俺にはよかったんだ」 「・・・・・・」  俺が言うことは町山君には、禅問答にでも聞こえていたと思う。 黙って、自分が持つプラコップの日本酒の表面に立つさざ波に視線を落としていた。  いい加減、ぬる燗になっていてもいいくらい、町山君は両手でコップを握りしめ続けていた。  そう――、俺は妻では、佐知とではドキドキワクワクしない。 それは全く、彼女のせいではなかった。  町山君のプラコップの中の日本酒が大きく波打ち、彼の喉の奥へと一気に消えていった。 「おい――?」 「それはもう、ワクワクドキドキすることに飽きたってことですか?」 「飽きたと言うよりは、あきらめた。――懲りたんだよ」  一気飲みをした町山君に煽られたわけではないが、俺もウィスキーを飲み干した。 こちらは、これも持参したショットグラス一杯分だったから、大した量でもなかったが。  アイラ島独特のスモーキーな香りが口の中を満たし、やがて鼻へと抜けていく。  もう、懲りごりだった。 一時の熱情だか情欲だかに浮かれて突き動かされて、人にはけして大声では言えない恋愛にうつつを抜かすのは――。  そう思いながらも、最後に付き合った男が好きだった銘柄のウィスキーを、未だに飲んでいる自分に苦笑する。
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