確かに、それは燻ぶり続けている

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 一瞬、酔っ払っているのは自分の方かと思ったが、頬骨に当たるメガネのフレームの金属特有の冷たさが、今、実際に起こっている出来事だと教えてくれていた。 自分の顔が相当に熱いことも、同時に分かった。  確認するかのように、町山君の舌先が俺の上唇をなぞった。 「――煙の味がする。炭火の近くだからですか?」 「いや、これはこういう味のウィスキーで、ピート香と呼ばれる特徴の一つなんだ」  真顔で質問してくる町山君に釣られて、俺も真面目に回答した。 町山君が笑い掛けてくる。 「美味しかったです。どうも、ご馳走さまでした」 「・・・・・・」  今さらながらに、町山君の行動と言葉との意味を考え始めたおれに、 「もう、寝ますね。おやすみなさい。弘毅(ひろき)さん」 と挨拶をして、バンガローへと引き揚げていった。  町山君が俺の名前を憶えていたことに、改めて驚いた。 「あぁ、おやすみ――」 ゆっくりと夜の闇へと溶け込んでいく町山君の背中へと、そう告げる。  俺は、バーベキューコンロの中の炭火を見た。 周りはただの黒い塊だったが、内側は未だ(くす)ぶり続けているようだった。  このまま放っておけば、いずれ自然に消えるのだろう――。 分かっていても、そうは思えない自分が確かにいた。  しかし、ほんの微かでも燃え続けている火を炎を引きずり出して、夜気へと晒し、全く燃やし尽くしてしまうことは、今の俺にはどうしても出来なかった――。
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