微かに、細く弱くだが、

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 タープテントの下の灯りは、ギリギリの明るさまで落とした。 虫が寄って来るのを防ぎたいのもあるが、バーベキューコンロの中に残り燃える炭火の赤さを眺めていたいからだった。  町山君はその夜、自分が持って来たはずの純米吟醸の日本酒を持て余しているようだった。  手にしている透明のプラスチックのコップの中身は、大して減っていなかった。 それを猫背で、チビチビと(すす)っている。  ぼんやりとした灯りの中でも、町山君の顔はそう赤くないのが、見て取れた。 銀縁の眼鏡の下の瞳も、しっかりとしていた。  ペラペラのコップから離した口で、町山君が言う。  「今年は梅雨明けも未だで涼しいくらいだから、お燗をしてもいいくらいですねー」 「・・・・・・」  冬のならいざ知らず、夏のキャンプで燗をつけるなど聞いたことがない。 しかも、純米吟醸をだ。  大の日本酒党の妻がこの場に居たら、激怒したに違いない。 想像した俺が思わず黙り込んでいると、町山君は勝手に続けた。 「でも、かえってよかったかも知れませんね。虫刺されもしませんし。去年は、不要不急の外出は控えて下さいって、アナウンスされるほどの酷暑でしたから。日中は、熱中症になりそうなくらいの炎天下で日焼けはするわ、夕立なんてレベルじゃないゲリラ豪雨はあるわで、散ざんでしたね」 「そうだったな」  おれがそう、相槌を打つのが精一杯だったのに対して、町山君はまだ続けた。 「それにしても、お子様たちは元気いっぱい!だったなぁ。ラムネは盛大に吹きこぼすし、かき氷やパッキンアイスでしたっけ?チューブ入りのを食べまくるわ、水風船の投げ合いっこはするわで。花火をし終えたら大人しく寝るかと思ったら、肝試しが出来ないからって、怪談でキャアキャア騒いで――、さすがにこの時間になると、電池が切れたみたいにコテッと寝ちゃいましたね」 「・・・・・・」
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