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確かに、それは燻ぶり続けている
妻の本心は分からない。
しかし、俺は身も心も、確実に楽になった。
俺の言葉を答えを、町山君はどう思ったのだろうか?
実にきまりが悪そうに、ただただ笑っている町山君に、おれは告げた。
「そう言う君は未だ独身だろう?佐知の二才下なら、そろそろいい年じゃないか?」
俺と妻とは十才近く年が離れている。もちろん、俺の方が上だった。
それにしても、町山君は比較的上に設定されている男の結婚適齢期を、とうに過ぎている。
「由利先輩とは一才違いですよ?先輩、早生まれでしたよね?」
「・・・・・・」
町山君は、夫のくせにそんなことも忘れていたんですか?と、俺の上げ足を取りたいのではないようだった。
焼き網の下、バーベキューコンロの中で赤く黒く燃え残る炭に、目を預けながらつぶやく。
「――何かこう、ワクワクドキドキしていたいんですよね。何時も、いつまででも」
「それはその――、ずいぶんとロマンチックだな」
やっとのことで述べた感想も、嫌味に聞こえやしないかとヒヤヒヤしている俺に、町山君は真顔で言った。
「そういうの、丹生さんにはないんですか?」
繊細な銀ブチのメガネの奥の目に、未だ酔いは見付けられなかった。
「ないな。今さらしたいとは思わない」
自分でも驚くほどに、キッパリと即答出来た。
納得がいかないように、あからさまに首を左に傾ける町山君に、おれは追い打ちをかけた。
「今は、ワクワクドキドキとは縁がない、波風立たない穏やかなのが、何より一番だと思うよ」
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