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「あきらかにやべーし俺等とは世界が違うから関わらない方が…て、え?おい!」
篠崎は佐々木の制止を無視し立ち上がると、志山の前に仁王立ちになった。
「体のセンサー壊れてんの?こんなくそあちぃのにそんな格好で涼しい顔してんのあんただけだぜ」
「篠崎っ!」
佐々木の小さく呼ぶ声が聞こえた。
志山は本から目を逸らさず身動きもしない。
篠崎がポケットに入れていた手を机に置いた瞬間、志山はガタンと立ち上がった。
先程の位置に本を戻すとカバンを持ち図書室から出て行った。
「あーあ。しかもそれ先輩に取る態度かよ」
佐々木は呆れたように笑った。
「あいつ…」
篠崎は志山が立ち上がった瞬間、黒い癖のある髪とマスクの間の青白い肌に汗が流れていた事に気付いていた。
無理をしてる?
篠崎は首を傾げたがまぁいいかともう一度座り窓越しに下を覗くと志山がグラウンド脇の道を校門に向かって歩いて行くのが見えた。
「変なやつ」
なんとなくその姿を頬杖をついて見送った後、チラリとグラウンドで練習する野球部に視線を送り目を伏せた。
「寝るわ」
「最初からそのつもりだろ」
机にうつ伏せると遠くで掛け声や小気味よい金属バットの音が聞こえ静かに目を閉じた。
夏休みが始まり、篠崎は図書室の志山の席を覗くと、また完全装備のような格好であの本を開いていた。
借りればいいのに。
単純にそう思いなんとなく眺めていると、突然周り気にするような仕草をし始めた。
篠崎は本棚の隙間から様子を伺っていると志山はゆっくりと左手の手袋をはずし、そこから透けるように白く形の良い指が現れ、思わず喉を鳴らした。
そしてその指が開いたページの表面を撫でた瞬間、髪の間から覗く目尻が下がった気がした。
ドクンッ…
その光景にじっとしていられず、近付いた。
「そんなに好きなら本物見に行きゃいいじゃん、何駅か行きゃ目の前海だろ、なぁ」
しかし冷静に再び手袋をつけると席を立ち、篠崎の伸ばした手を避けるように体を引いた。
「ひっでぇの…」
篠崎はその手で頭をガシガシ掻いた。
志山がこの前の様に本を棚に戻し出口に向かおうとしたのが分かり、思わず後を追った。
ほっとけないのか、ただの興味本位なのか。
自分でもわからない。
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