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テーブルの対面に座る、舟村大使が、目を丸くして身を乗り出す。僕は、書類の偉い人の顔写真を指で突く。
「この人に言ってやろうかと……」
「やめてください!」
「舟村大使に迷惑かかりそうなので、やめておきます」
「絶対に言わないでくださいよ。どうかお願いします」
「言いません、ナガツネ産業常務取締役として、耐えます」
***
自宅訪問、当日になった。会社は公休だ。嫌いでも笑顔を僕は通す。偉い人は、リビングまで上がってきた。硬い握手だ。取り囲むマスコミが、2ショット画像を撮影している。家の壁には偉い人たちから、お土産としてもらった、世界中の特産品が飾られている。
それらについても、僕が日本語で説明してやった。舟村大使が通訳してくれた。
偉い人は感心した様子で、世界中の民芸品や芸術品を眺めていた。
横に立ち、アイドント、ライクユーと、言葉が脳裏を過るが、ぐっとこらえた。
マスコミや警備の方々も、偉い人に同行なのだ。偉い人が家から消えれば、誰もいなくなる。
静寂が戻ったリビングで、僕は椅子に座る。テーブルの上に、受け取ったプレゼントの箱を放り出す。僕はいらない。
「あんな人のプレゼントなんか、ネットオークションで売ってやろうか」
「中川さん本気ですか?」
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