2人が本棚に入れています
本棚に追加
一ヶ月前の土曜日。その日はこれ以上ないくらいに太陽が輝いていて、娘たちは日焼けが気になるんじゃないかって心配しながら、休日出勤する準備で忙しなくしていたのを覚えている。
姉妹で仲良く遊園地に行く。それは何気なく過ぎていく日常でしかなくて、今日は早く帰れる予定だから、たまには晩御飯でも作って、帰ってきた朱雀と清花も合わせて三人で晩御飯を食べる。そんなつもりだった。それが終わったら日曜日が来て、月曜日が来る。そしてまた土曜日が来る。
そうした平凡だけど、それなりに豊かで幸せな日常が繰り返されると思っていた。
二人は遊園地からの帰り道で、交通事故に巻き込まれた。清花は右足と左腕を骨折した。朱雀は……命を落とした。
その時のことは思い出したくない。でも、清花に朱雀の死を伝えた時のことは鮮明に覚えていて、今でも瞼に張り付いたまま。
最愛のお姉ちゃんの死を知った清花はショックのあまり気を失い、次に目覚めた時、私をお姉ちゃんと呼んだ。
お医者さんに言われずとも、清花に何が起こったのかはすぐにわかった。
事故があった日の記憶がすり替わっていた。朱雀の死という膨大なストレスから逃避するために。
あの日、清花の記憶では私と遊園地に出かけたことになっている。そして事故に巻き込まれて、母である私が死んだ。
朱雀が生き返るのなら、私は今ここで死んでも構わない。喜んで命を捧げられる。だけど、母と姉を比べて、母を死んだことにする清花を目の前にすると、涙を流さずにはいられなかった。
私は事故で大切な存在を二つ失った。一つは大切な娘である朱雀を。もう一つは、母親としての自分。もっと言えば京香という私自身を失った。
壊れた清花の前で母親として、京香という人間として、振る舞い続けることは出来なかった。
最初は朱雀の死を納得させようとした。だけど諦めた。事実を伝えようとする度に、発狂したように病院の中で暴れ狂い、気絶して、徹底的に姉の死を母の死に置き換えようとする清花に疲れ果ててしまった。
だから私は母であることと、京香であることを捨てて、清花のお姉ちゃんである朱雀として振る舞うことにした。
そうすることでしか、私と清花は自分を守れないから。
最初のコメントを投稿しよう!