2人が本棚に入れています
本棚に追加
いけないことだとわかりながら、次の日から私は朱雀の携帯を使い始めた。自分の携帯を使うと清花が不審に思うのも一因だった。でも、本当の目的は朱雀と清花の関係を知るためだ。
携帯に残された、朱雀と清花のやりとり。それはとても、親の私には言い出しにくいようなことで溢れかえっていた。
大学生でアルバイトをしていた朱雀は、清花を連れてこっそり旅行に行っていたのを知った。
朱雀はサークルの旅行だといって、清花は友達の家に泊まりに行くと嘘をついて。そのことを、過度にプライベートに干渉するのも、されるのも嫌っていた私は今まで知らなかった。
朱雀の携帯に残された、旅先で撮った笑顔でいっぱいの清花の写真。自分が写っている写真はほとんどなくて、一部に誰かに撮ってもらったと思われる姉妹で写った物があるだけで、他は全て清花が被写体。風景写真はただの一枚もない。
旅先の景色はおまけで、はしゃぐ清花こそを撮りたいという想いが伝わってくる、情熱というか魂がこもった写真たち。
それらを見て、涙が溢れるのを止められなかった。姉妹同士の恋愛。本音を言えば気持ち悪いと思う。認める気にはなれない。
だけど、ここまで真剣に付き合っていて、二人とも幸せそうで、この先誰にも認められないかもしれないけれど、二人の笑顔で溢れていたことだけは確かで。
事故のあった日の写真もたくさんあった。ジェットコースターに乗ってはしゃぐ清花を下から写した写真。観覧車から街を見下ろして笑っている清花の横顔を写した写真。
清花が朱雀の死を受け入れられないのは無理もないと思った。母親の私が今まで見たことのない清花の笑顔。そして、今この瞬間に感じている幸せをそのまま保存したような写真。
朱雀と清花が付き合っているのを認めてあげることは出来ないけれど、守る価値があった……少なくともこんな形で奪われて良いような、いい加減な関係じゃないことだけは伝わってくる。
清花が狂うのも無理はない。同じ目にあったら私も狂うだろう。清花を喪った朱雀など、想像したくもない。
取り返しがつかないのはわかっている。だけど、奇妙なことに極まった悲劇のおかげで清花を誤魔化し続けることなら叶うかもしれない。
嫌悪感とか、倫理とか、常識とか、そんな物よりも朱雀と清花のあるはずだった想い出を紡いで行くことの方が大切に思えた。
自分を捨てることで、二人の幸せを守ることが出来るのなら、そのことの方が遥かに尊いものに思えた。
最初のコメントを投稿しよう!