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校門の前で清花を車に乗せて、あてもなく車を走らせ始める。
「清花はどこか行きたいところとかある?」
「特にはないかな。お姉ちゃんの行きたいところでいいよ。でも強いていえば楽しげな場所かな」
「うん、わかった」
朱雀の清花に対する口調さえ、今だに覚束ない中、楽しげな場所を必死に思い浮かべる。
「お姉ちゃん、今日誘ったのは迷惑だった?」
「えっ! どうして」
「だって楽しそうじゃないっていうか、難しそうな顔してるから。迷惑だったのかなって」
「……そういうわけじゃないの。ただ、こういうときにどこに行けばいいのかがわからなくて」
「変なお姉ちゃん。二人だったらどこでも楽しい、でしょ? 少なくとも私はそうだよ。お姉ちゃんもそうでしょ」
「ええ。もちろん」
どこでも楽しい。そんな風に思える相手が私にもいただろうか。デートをしても、いつしか相手に合わせてあげている感覚になって、結婚生活でもそう。
別れるのは必然だった。今は娘がいるおかげで、辛うじて連絡をたまに取り合えているだけ。養育費をもらって、何かの記念日には一緒に四人で会う。
そんな薄い関係だから、事故の後は清花のことで精一杯で連絡も出来ていない。こんな時にくらい頼ればいいんだろう。だけど自分の弱さをさらけ出せるほど、私は強くない。
「……不謹慎だって言われるかもしれないけど……だけどずっと俯いてたって、仕方ないよ。だから楽しもう。ね?」
そう言って微笑む清花を見て、そんな想いは一層強くなる。
最初はいくら大切な人が死んだからって、ここまで壊れるとは、なんて心が弱いのだ、と蔑む気持ちがあった。
だけど、朱雀の遺品を調べたり、清花がお姉ちゃんに向ける想いを引き受けているうちに、そうした気持ちに変化があった。
私はただ人を避けていただけだったのかもしれない、と。
こんな時に相談する相手もいない私は、ただ一人である程度なんでも出来たから、一時的に家庭を築けただけで。
失うことばかりを、離れて行くことばかりを恐れて、朱雀や清花のように、自分の存在以上に大切な相手を作ってこなかっただけではないかと。
努力をして朱雀らしく振る舞えるようになったとは思う。その過程で朱雀の想いが乗り移ったみたいに、清花のことを娘というだけでなく、妹として、恋人として愛おしいと感じる時もあった。
だけど、自分の中でそうした感情がぴたりととはまらない。
そうした感情は京香という自分とは別の人格が産み出した、借り物の感性に思えた。
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