王の弟

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「兄さん、待って」 「戦場で待ってもクソもあるか」 泥と血の香りに鼻が歪みそうだ。弟は苦笑いしながら槍を握りなおした。耳をすませば済ますほど、足音が聞こえる気がするというと弟は肩を叩いてきた。 「今、周りには誰もいません。気にしすぎです」 兄さんは策謀家なんだから、私が守るんですと楽しげにいう彼に安堵の息を漏らす。叶わない。彼には。 「ほら、北極星が右にあるんでこのまま進めば国へ帰れます。しかし派手に負けましたね」 「ルキア王が負けたのは久方ぶりだな」 「そうですね。このところ常に勝ち星を挙げてましたし」 「まったく。油断かな」 さあ、といった拍子に後ろの藪へ槍を突き出す。ヒキガエルのような悲鳴とともに引き抜かれた槍には血が滴り落ちていた。 覗けば首をひと突き。獅子の紋章は隣国のものだった。 「まだ当分先ですかね。早く抜けたいですが」 「まだ動ける」 「無理しないでください。兄さん」 にんまりと笑った彼の背は頼りになった。
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