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 表紙や背表紙は擦り切れ、角が丸くなっている業務ノートを車の中で読み返している。  月瀬嘉哉(つきせ よしや)――社長と交換日記をしていたノートとメモ代わりに使っていたノートが何十冊もあるが、果たしてこれからひとりでやっていけるのだろうか。  そんなこと漏らせば、『なあに辛気臭い顔してんだ。シャキッとしろ。大体、何年俺のもとで働いてきたんだ? ポンコツに育ててねえよ』と嘉哉に叱られそうだ。  入院してから、秘書から代表取締役社長になった遠峯潤(とおみね じゅん)は、「急な人選で悪い」と言われ、会社を背負う立場になり、嘉哉は最後まで潤を育ててくれた。   病室から厳しくも優しいアドバイスを送ってくれる嘉哉と恋慕ってきた月瀬光(つきせ ひかる)の存在がなければ、一生秘書として社長を支えていく立場で終わるつもりだった。  最期まで、若造の潤の行く末を案じるとともに、光のことを誰よりも愛し、行く末を案じていた彼の想いを受け継ぐのも、自分の使命だと思っている。 業務ノートの表紙を黙って見つめた。 (しっかりしなくては)
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