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血だまりの中にフィービーの身体が横たわっている。
妖精たちと戦争を始めてからというもの、何度となく目にした光景である。
そして、もう二度と見ることのないようにと、何度となく神に祈った光景であった。
「おまえたち妖精は……なぜ女神クローティアとの盟約を違えたんだ!」
すでに事切れたフィービーから答えが返ってくることはない。そう知ってはいても、アルドリドは言葉を叩きつけずにはいられなかった。
「女神クローティアの遺物が我々人間にある限り、おまえたち妖精は敗北の運命を歩むしかないと……わかっていたはずだろう!」
人間と妖精は友好的とは言えないまでも、わずかな陸地で共存していた。山間に集落を作る人間と森の奥に棲まう妖精は互いに関知せず、そうして世界の秩序は保たれてきた。
半年前、魔王フィービー率いる妖精勢力の王都襲撃がなければ、その均衡が破られることもなく、アルドリドは故国で平和を享受していただろう。
「だが、これでもう、ほんとうに終わりだ……!」
時が遡行する直前、アルドリドは苦痛に見まわれる。それは病魔に冒されたかのようだった。
耐えきれずに意識を手放し、そして気がつけば魔王を倒した事実は消える。時が戻っているのだと、アルドリドは幾度となく思い知らされてきた。
だが今、聖剣が魔王を貫いた瞬間にいつも訪れる、腹の奥からこみ上げるあの不快さはない。
今度こそ、魔王を倒して未来への道を歩むことができるのだ。
「………………運命……だと……」
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