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響く声に、アルドリドははっとして振り返った。
「ばかばかしいことを言うのだな、ハインラインのアルドリドよ」
見れば、フィービーは血だまりに手をついて立ち上がろうとしていた。
まだ息があるのか。
とどめを刺すべく、アルドリドは血に濡れた剣を構え直した。
「運命を切り開くのは……神などではない」
「えっ……」
思いがけない言葉に、アルドリドは息を呑んだ。
アルドリドの額から汗がしたたり、血の中へ垂れ落ちる。
魔王フィービーは、青白い皮膚を血で赤く染め上げながら、すぐそこまで迫っている死に抗うのをやめない。灯火が消える直前にひときわ輝きを増すように、フィービーの若草色の目がぎらりと光る。
「…………フ……ども……ファームども、覚えていろ……おれは……必ず…………」
フィービーがアルドリドへ伸ばした腕が力なく下ろされ、跳ね返った血飛沫がアルドリドの足下を汚した。
そのとき視界がぐにゃりと歪み、アルドリドの意識も闇の中へ溶けた。
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