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防風林として植えられた松林の隙間を、掻い潜って吹き抜ける潮風。
そろそろ夏を匂わせる日射しが、防波堤のコンクリートに白く照り返している。
そんな道を自転車で真っ直ぐ進むと広い砂浜が見えてきて、奥の高台になってる場所に、黄色い屋根の小さな店があった。
【DRIFTING SHIP】
という看板が1階と2階を仕切っており、1階は釣り道具や潜水グッズ、サーフボードなんかも置いてあるスポーツ用品店だ。
でもわたしが用があるのは、2階の喫茶店のほう。
用品店の中からも行けるけど、非常口になってる外部階段を登っていくのがいつもの通路。
木漏れ日が葉っぱ模様を描く壁を伝って、カンカンカンと登っていく時、オジサンにはその音でわたしが来たことがすぐにわかるらしい。
店の奥に繋がる扉を開けて早々、ガタイが良くて顎髭を生やした熊みたいな男が、腕組み姿でわたしを待ち構えていた。
「やっぱり悠海(ゆうみ)か。
なんだぁ、この不良娘が。
平日の真っ昼間だってのに、学校サボってこんな所で油売るつもりかぁ?」
「違うってばオジサン、今期末テスト期間で、学校は午前中で終わりなの。
お母さんは仕事だから、ここでお昼ご飯食べさせてもらいなさいって」
オジサンはちょっと考えるように顎髭をポリポリと掻く。
いかつい風貌と可愛らしいイルカのエプロンとのギャップが、なんだか可笑しい。
「期間テストだぁ?
そう言やぁ、そんなもんがあったなぁ。
3年生のテストって言やぁ、内申とかにも影響すんだろ?
ちゃんと勉強してんのかぁ?」
「一応それなりにはしてるけど……
わたし、もう就職先決まってるから、内申とかあんまりどうでもいいし」
「あー、悠海(ゆうみ)は東京行くんだったなぁ」
クラスのみんなに抜け駆けしてさっさと内定を取ったわたしは、いわゆるコネ入社ってやつだった。
親戚の叔父さんが、東京でやってる浄水器の製造会社。来年の3月から、わたしはそこの事務所で働くことになっている。
別にズバ抜けて待遇が良いわけでもないし、浄水器なんかに興味があった訳でもない。
去年の冬に叔父さんが家に遊びに来た時、その場のノリと言うかなんと言うか、わたしはあっさりとお誘いに乗ってしまっていた。
叔父さんとはウマが合うのもあるし、いっぱしの田舎者らしく、大都会への憧れもあったんだろう。
でも、特にやりたい事も見つかっていないわたしは、本当は自分で生活さえ出来れば何でも良かったのかもしれない。
ただ、これから始まる就活や受験戦争の煩わしさから逃れられる──たったそれだけの一時的解放感にすがりついたと言ってもいい。
今さらだけど……
流石に安直すぎたかな、と、ちょっと後悔もしている。
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