05 新しい時刻表

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05 新しい時刻表

 なんだか知らないが、こうやって古河を起こそうとするのも、もう何度目か覚えていない。 「おい、古河。お前歯くらい磨いて寝たほうがいいんじゃねえのか」 「んー」  返事なのか寝言なのか分からない。 「俺帰るぞ。鍵かけなくていいのかよ、おい。知らねぇぞ!」 「見届けてやれよ、いいじゃねえかそのくらい」 「はぁ?」 「企画部長のスケジュールだよ……」  寝言だ。  アルコールさえ持参すれば、古河は機嫌よく高木を迎え入れた。もっとも、別に持っていなくても閉め出されるわけではなかったが。  気が向けば酒を持って古河の部屋に行く。逆がないのは、高木の部屋が四階の端にあり、二階の反対端に住む古河が階段の昇降を面倒くさがるから。それだけだ。 「まったく。古河。こーがー」  電車で親切心から声をかけ、誰だてめぇ、と凄まれたのが始まりだ。  これといった共通点や何かがあるわけではないが、同世代のせいかウマが合う。古河の力の抜け具合というか、あの俺は俺、お前はお前、好きにしろ、というところがなんというか楽なのだ。  どうやって営業しているのかと思うほど、普段の古河は愛想がなくて口調もぞんざいだ。仕事になるといきなり人が変わるというタイプでもないだろうに、世の中には不思議なこともあるものである。  由香ちゃんの友達である派遣さん──名前はサヤカだそうだが──情報によると、成績はそこそこいいらしい。 「古河! おい、えーと何だっつった、こいつの名前……友成(ともなり)!」  幾ら声を掛けても埒が明かない。今度は普段呼ばない名前を記憶の底から引っ張り出し、肩を掴んで揺すってみる。  古河はうっすらと目を開き、焦点の合わない目を高木に向けた。駄目だこりゃ、酔ってる上に寝ぼけてやがる。 「うるせえっつーの、マジで、もう勘弁……」 「誰もこれ以上飲めなんて言ってねえぞ、酔っ払い」 「俺、明日仕事……」 「明日は土曜だ。どこに出勤すんだてめえは」 「腰立たなく──……放してくれ頼むから……も、無理」  腰抜かすほど飲んでねえだろうが。  言いかけて、何となく言葉を飲み込みぼんやりとこちらを見つめる古河のいつもと違う顔を見た。  とろんとした奥二重のきつい目が、何度か瞬きまた閉じられる。  何だ?  何だこれは。 「──友成?」  敢えて呼んだ名前に、古河がまた身じろいで、いつもより掠れた声で呟いた。 「……許して」  明日から時刻表が変わる。  古河と初めて言葉を交わして、半年経つのだ。
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