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鏑木はテーブルの上に転がる白くていびつな丸い塊を見て眉間にシワを寄せた。
「なんで急にパンなんだ?」
上着を脱ぎながら訊くと、弓枝は一度キッチンに手を洗いに行った。
そして間もなくリビングに戻ってくると、鏑木の手から上着を受け取ってハンガーにかける。
「暇だったのよ。レシピ見たら簡単だし、あんたもしばらくまともなご飯食べてないんじゃないかと思って」
「それなら白い飯とすき焼きがよかったな」
「なによ…嫌な言い方ねえ。咲菜ちゃんと頑張って作ったのにさ」
「だって、簡単なんだろう?」
ブスっとした顔の弓枝を見て、咲菜が笑い出した。
「付き合ってるのぉ?」
子どもとは思えない事を訊いてくる。
「付き合ってないよ。ただの親戚だ。それより咲菜、荷物の準備はしたのか?」
そう訊くと、咲菜は頬を膨らませて俯てしまった。
「あんたも意地悪よね。咲菜ちゃんが寂しいの分かっててそういうこと言うんだから」
「仕方ないだろ、仕事なんだから。まさかロケに連れていくわけにいかないだろうが。それならお前と一緒の方が安全だ」
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