Q ―鏑木―

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咲菜が納得しない事は分かっていたが、海の上に咲菜を連れていくわけにはいかない。それに、ついさっき土方から警察が咲菜を探していることを聞いたばかりだ。 理由はどうあれ、できるだけ咲菜を人目に晒したくはない。 「まあ…分かってはいるんだけどね。それより、後で時間ある?」 弓枝は咲菜に聞こえないように小さな声でそう訊いてきた。 夕飯を食べて咲菜がベッドで寝息を立て始めると、弓枝が紅茶を淹れてくれた。 「ほんと、あの子はいい子ね。あいさつもできるし、言われたことはしっかりする子よ」 そう言われると、島送りになる咲菜の母親が脳裏に浮かぶ。 「どう思う?咲菜の母親が中学生に手を出したと思うか?」 子どもの姿を見れば親がどういう人間だか分かる…と、多くの人は言うが、実際は違うような気がしている。 どんなに厳格な親から生まれた子どもでも、猟奇殺人犯になる可能性はある。どんなにゆとりある家庭で育てられても、人の目を気にしてうまくしゃべれない人間もいる。 理屈じゃないんだと思い始めた今日この頃。 災害の後から日本の法律は大きく変わり、おかしくなり始めた。
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