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「咲菜ちゃんのお母さんの事はよく知らないけど、咲菜ちゃんはいい子よ。散歩に行ってもちゃんとご近所さんに挨拶するんだから」
それはきっと周囲の様子を窺って、どうすればいいか考えているからだ…と、思った。
母親が連れ去られて居場所がなくなった今、ここから追い出されたら咲菜に行き場はない。どうにかして居場所を確保しようと考えているに違いない。
「咲菜に窮屈な思いをさせたくないんだけどな」
つぶやいた後、弓枝が力なく笑った。
「分かってるわよ、咲菜ちゃんだって。血もつながってない赤の他人が引き取ってくれたこと自体奇跡なのよ?それに…梢だってきっと康次がしたこと褒めてくれるわよ」
久しぶりに聞いた名前に胸が震えた。
鏑木は額を掻きながらティーカップの淵を指先でなぞり、ため息を吐く。
「なんか話があったんじゃないのか?」
改めて弓枝にそう訊くと、弓枝は携帯を出すとなにかを検索し始めた。
「前の職場から連絡もらったのよ。この近くに大きな建物があるんだけど、その建物にたくさんの子どもたちが出入りしてるんだって」
子どもたちが8階建てのビルの出入り口から入って行く様子を映した写真が携帯画面に映されると、鏑木は少し身を乗り出してその写真を見た。
どの子も同じくらいの年齢で、服装もTシャツとジャージで統一されていた。
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