Q ―鏑木―

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「塾かなんかじゃないのか?」 「私もそう思ったんだけど、なんか変なのよ。この子たち、夕方4時にはこのビルに入って行って、翌朝の7時半頃に出てくるの。っていう事はさ、ここって家じゃない?」 「じゃあ家なんじゃないのか?」 特別不思議なことだとも思わなかった鏑木は、弓枝が何を言いたいのかよく分からなかった。 「ちゃんと考えてよ、マジで。このビル、6年前に建てられたものよ?おまけにみんな6歳くらいのランドセル背負った子ども。おかしいと思わない?」 「おかしいと思えばおかしいけど…別に騒ぐほどの事でもないだろ」 当時は災害に見舞われて国中あちこちで物資が不足した。復旧、復興に向けて国民が協力してきた中で、避妊具が手に入らなかったのも事実だ。 多くのものを失ったから、希望が欲しいと思ったのも事実で、その希望が子どもだったのかもしれない。 「そうかなぁ…それにしたって年齢が固定しすぎてるのよねぇ」 弓枝は納得していないようだったが、だとしたらこれを問題視する理由がなんなのか知りたい。 子どもが生まれて損をする人間など、今の世の中にはいないじゃないか…と、鏑木は思った。
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