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大尉の右手にあった缶がぺキッと小さく音を立てた。たぶん、感情的になって手に力が入ったのだろう。
男は更に俺を見ながら訊く。
「生まれた時から島にいたわけじゃないだろ?全く覚えてないのか?」
俺の年齢から島に収容施設ができた年を計算すれば、幼い頃は本土で過ごした事が分かる。
「覚えてない」俺が言うと、
「そうか」と、男は答えた。
不思議だけど、俺はこの男が嫌いじゃなかった。
確かに突然銃を向けたり、乱暴な一面もあるが、人の話に耳を傾ける時の表情は穏やかだ。
「本土はこことは大違いだ。向こうに行けば…善悪が分からなくなる」
どういう意味だろう…と、思った。
「まるで異次元だよ。電気も水道もあってガスもある。好きな時に風呂に入って、好きな時に飯を食って、寝たいときに寝て、寒いときは暖房をつけて、暑い時にはエアコンをつける。
当たり前に必要な物がある世界だ。それもこれも、俺たちみたいな罪人が汗水たらして肉体労働をこなしているおかげさ。本土ではやりたいことをやって生きればいいんだ。
普通の生活をするなら一日4時間の労働で充分な生活ができる。趣味を仕事にするだけで一軒家が手に入る。本土はそういう場所だ」
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