0-2 バラバラの春キャンプ

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 軽くウォーミングアップをした後に、 早速ブルペンで投球練習をすることになった。 マスコミの人々がネット裏で私たちを見ている。  私は、どうしようか、 やっぱり初日はあまり球速を意識せず、変化球の曲がり具合を確認しようか。  カーブ、フォーク、チェンジアップ、カットボール、それぞれ一球ずつ投げてみる。 ブルペンキャッチャーが取りこぼすぐらいには曲がっている...というか、普通の変化球ぐらい取って欲しいな。  そして、私の一番の武器は... 『やぁぁ‼︎』 放った球はストレートと同じようにグラブの方へ向かう。 キャッチャーが取ろうとした瞬間、急激に球の軌道が変わった。 グローブに触れることなく、球はキャッチャーの右ざ腕に直撃した。  これが私の武器であるカットボールだ。 記者の驚き声とキャッチャーのうめき声が響き渡る。  自分で言うのもなんだが、この変化球があればプロでそれなりにやっていけると思っている。  そんな自信は、他の選手のピッチングを見た瞬間に揺らいだ。  緑宮さんは165km越えのストレートが武器。 「ぎゃー‼︎」 ただ、荒れ球が課題で、肩に球が直撃したキャッチャーは痛そうだ。  スタットさんはアンダースローながら制球が良く、鋭く落ちるフォークが武器だ。どのぐらい落ちるかと言うと、 「ぐぅ...」 高めに構えたキャッチャーの股間に球が直撃するぐらいだ。  そして、フォーウラーさんは、正確にキャッチャーミットに球を投げ込む。 「あっ...」  でも、キャッチャーがポロポロこぼす。  今さらだけど、ブルペンキャッチャーが下手すぎる。 球をこぼすたびに拾う手間が入るから、とにかくテンポが悪い。 マスコミ陣も最初は反応を見せたものの、そのうちに黙ってしまった。  しばらく静音が続く中、セリン監督が練習場にやってきて、ブルペンに入ってきた。  ここでアピールできれば、オープン戦でチャンスが回ってくるかもしれない。 『よし』  小声で気合をいれ、キャッチャーに向かって決め球を投げ込む。  ...しかし、球はキャッチャーの頭を超える大暴投になってしまった。    つい力んでしまった。 どうも、昔から緊張すると制球が乱れてしまう。この弱点のせいで、大事なところで失敗し続けてきた。  横目で監督の方を見ると、彼女は私の方を見ながらメモをとっていた。うん、オープン戦のチャンスはなくなったな...  せめて、リリーフでも使ってもらえるように全力でアピールしよう。  ストレート! 甘く入ってしまった...  フォーク! 地面にたたきつけてしまった...  カットボール! 全然曲がらない...  気が付くと、監督はもういなくなっていた。 初日から最悪な印象を与えてしまった。  落ち込みながらも、私は今日の練習メニューを続けた。 緊張が抜け、球が目的のところに向かうようになる。 『この球を見てくれればな』 そう思ったけど、録画とかされていても結局緊張でがちがちになってしまうだろう。    
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