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第一話 秘密主義者:霜山 光彦
霜山光彦にも友人がいる。大学の工学部にも、同じ高校から三人の友人と一緒に入学した。だから、この演習で四人班を組めと言われたとき、光彦は直ぐに同郷の友人達を思い浮かべた。高校時代の三年間を過ごした仲だから、アイツらも同じく四人で班を組むつもりだろう、光彦はそう高を括っていた。
しかし、彼らはそれを拒んだ。二人は入学早々のオリエンテーションで知り合った新しい友人と組むと言い、もう一人はそもそも別の演習を選んだ。
つまるところ光彦は、友人たちにとって、一番の仲という程ではなかったのだ。
見捨てられた──いや、置いて行かれたというべき光彦は、結局どのグループにも属すことができず、こうしてE班の一員として割り当てられた。光彦としてもまったく接点の無い面々と組むことは不本意だが、同じ班となった事は仕方がない、と思いを改める。
「いやあ。暑くなってきたなあ」
かたい雰囲気を崩そうと、光彦が笑顔で語りかける。
「まだ五月だろ? この程度で暑いなんて言ってたら、先が思いやられるな」
携帯を弄りながら、須藤が不機嫌そうに光彦を睨みつけた。思いもよらぬ強圧に、光彦の顔が引きつる。真部はそんなことなど無関心らしく、目線すら光彦へ向けていない。すると突如、本郷が
「おっ」
と声を上げた。釣れたとばかりに、すかさず光彦が食いつく。
「ん? どうかした?」
「一〇時二四分」
壁時計を見ると、その時刻を指している。
「確かにそうだな。……それが?」
「一〇二四……。二の十乗」
それだけ呟くと、本郷は不気味に小さく笑った。確かに、二を十回乗算すれば一〇二四になるが、それがどうしたというのだろう。
まったく明るくならない空気に光彦は
「あぁ……? そう」
と苦笑いを浮かべるしかなかった。
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