第一話 秘密主義者:霜山 光彦

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 ロボットを作るためには、物理的に機体を作る”機構”と、センサーや制御ボードへの配線からプログラミングを行う”電気制御”の2つが必要だ。そこそこの規模のロボットなら電気と制御は分けられるが、今回は卓上レベルの小型さなので、ひとまとめにしても問題ないだろう。  この時点で、須藤と本郷、班員の半分が機構を担当をすることになったので、光彦は電気制御を担当しなければならなくなった。しかし、光彦自身に、電気制御の経験は一切ない。 「え? ちょっと待ってよ。俺も機構がいい」  と光彦が言うのも仕方がなかった。光彦としては、突然慣れていない作業を担当することは避けたい。しかし、先に名乗り出た須藤と本郷は強い拒絶感を露わにしている。 「はあ? じゃあお前、俺より上手く作れるのか」  須藤が語気を強めて光彦を睨んだ。思わず光彦が怯む。一方の本郷からは見下した目を向けられている。 「僕は数理・物理で学年五位の成績を取ってるんだよ? 悪いけど、君に僕以上の機構が作れるとは思えないな」  こうもあからさまに侮辱されると、光彦の顔も引きつる。とはいえ、胸を張れる程の実績や技術があるわけでもなければ、誇れる程に切れる頭も持ってはいない。何よりこの手合いは、どちらも苦手とする人間で、これ以上話し合ったところで強いストレスを受けるだけなように感じる。ここで意味なく場を荒立てて今後の活動を面倒にするよりかは、受け入れて何とかする方が合理的だろう。 「……わかった。けど、俺も制御なんてしたことないから、出来るか分からないけど?」 「『できない』は嘘吐きの言葉なんですよ」  光彦の言葉を聞いて、狙ったように本郷が意気揚々と即座に返した。きっと「どこの社長の言葉だよ!」等のツッコミ待ちなのだろうが、よくこの空気で言えたものだ。光彦もいたたまれない気持ちになるほどに、無言の時間が続く。 「わからないなら、図書館で本でも借りて勉強するとか、知ってるヤツに教えてもらうとかすればいいじゃねーか」  確かに須藤の言うとおりではある。しかし、光彦の友人はみな機械科出身のため、制御の知識を持っていない。 「じゃあ、制御できるヤツを紹介してくれよ」 「なんだ? お前友達居ねぇの?」  須藤があざ笑った。 「いるけど、機械科出身ばかりで誰も制御を知らないんだ」  しかし須藤はまだニヤニヤしている。ここまでコケにされると流石に腹が立つ。あまり舐められるのも癪だし、何よりいざというとき自分の意見が通りずらくなる。それは面倒だ。 「そういうお前は居るのかよ」  光彦がおもむろに反論した。そこまで馬鹿に出来るのだから、居るのだろうと。しかし、その後の空気は、光彦の想像通りに凍りついた。  真部は変わらず無言で座っていて、本郷は顎に手を当て嘘くさそうに考え込む仕草をしている。須藤には 「まあ、いるにはいるけどな」  とはぐらかされてしまった。 「本当にいるのか?」 「SNSで声掛けとくから」  大丈夫か……? と内心不安ではあるが、突っかかる必要も無いので、好きにさせよう。この手合いは隙が多いくせに、無駄に追及すると自尊心を守る為にキレる、と相場が決まっている。
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