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次の本は、部品の写真を散りばめた表紙にお堅いタイトルと、まるで専門書の様だが、中身は初心者向けに丁寧だ。中には”タイヤを動かすだけ”と簡単そうなプログラムコードも書いてある。
「まずは、これでなんとかしてみるか」
光彦は本を片手にその場を去った。同じ道を通って、検索パソコンの前まで戻る。その間に自分の携帯を点けて時間を確認する。探していた時間は、大体十分程だった。
(真部はもう戻っているかな)
先に出たのは光彦だったので、真部はまだ探している最中かもしれない。戻っていなければ待つだけだが、居てくれる方が話が早い。そう頭を巡らせながら最後の本棚を通り過ぎると、検索パソコンの席に真部が座っていた。
「お、もう戻ってたのか。いい本はあったか?」
近づきながら光彦が声をかける。真部が声に反応して振り返った。光彦が真部の手元を見る。そこに本は一冊もなかった。
「あれ、本は?」
真部は俯くと、黙りこくってしまう。
「……まさか、まだ探してない、とか?」
光彦が怪しんで聞いてみるが、真部は俯いたままだ。この申し訳なさそうな感覚、光彦は覚えがある。まだ確信はないが、きっと真部は探しにすら行っていない気がする。
「え? なんで探してないの?」
思わず光彦の語気が強まる。真部は伏しがちの目でパソコンの画面を指した。
「……使い方が分からないのか?」
少しの沈黙の後、真部が小さく頷いた。
「手分けして探そうって俺に言われて、言われた通りに座たけど、何をどう調べたら分からないから、ずっと座ってたってことか?」
光彦が一気にまくしたてると、真部は小さく頷いた。光彦が歩き、本を手に取っている間、真部はここにずっと座っているままだったのだ。
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