俺達は、人間に向いてない

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 四月二十日 火曜日 大学理工学棟 廊下  冬の寒さも和らぎ、葉桜が大学構内を彩っている。窓の外に広がる、スカイブルーな美しい空とは裏腹に、霜山(しもやま) 光彦(みつひこ)の心は、一足早い梅雨時の曇り空のように、暗く重たかった。向かう先は、工学部の演習室。建て替えられたばかりで、工学部の建屋の設備はどれも新しく、スライド式に改装された演習室の新しい扉も、傷一つなくとても綺麗だ。  演習室にはいくつかの作業台があり、それぞれ何人かの学生で囲むことができるように配置されている。既に多くの学生が集まっており、光彦は椅子とそれに座る学生の間を縫うように、一番先頭の作業台へと歩いて行った。そこには、三人の男子学生がおり、この三人こそが、光彦の顔を曇らせてる元凶だった。  仏頂面で不満げに携帯を弄る、須藤(すどう) (つるぎ)。  無表情にただ虚空を見つめる、真部(まなべ) (きょう)。  五線譜へ思うまま筆を走らせる、本郷(ほんごう) 明人(あきと)。  三人はそれぞれ、自分の世界に閉じこもっている。 「よう、遅れたかな?」  光彦がひとつ空いてる席に腰かける。しかし誰も言葉を発しない。無理もないだろう、他の班と違って、この班は望んで作られたものではなかったからだ。 一言でいえば「余り者の寄せ集め」である。
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