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セーラー服を着て、帰り支度を終えた女子高生が、生徒用の靴箱近くに立つ。役名は向原瑠璃だ。
「雨が降ってる。すぐに雨粒は密度を増しながら、横なぶりの雨が斜線のよう。玄関はどんよりと湿った空気が、支配する。朝の喧騒が嘘みたいに、誰もいなくて、とても広く感じる」
傘を忘れちゃった、と短く言っている。
「黒い瞳が点になっていたぞ。オレ傘一つしかないから」
「廊下から不意に気配がした。クールな田宮聖矢君。クラスの人気者でサッカー部員。あまり話す機会なかった。わたしは、心臓の拍動が高まって、頬が熱を帯びているの」
二人は同じ最寄り駅からの通学で、一緒に帰ることを合意する。
「わたしはスカートの裾を気にしながら、靴の履き替えを急いでいる」
「ぱっと開いた傘の内側に雨音が反芻している」
外へ出ている。相合傘状態になる。
「わたしは、気恥ずかしく、あらぬ方向へ視線を彷徨わせる。空を覆う灰色の雲は、厚いカーテンのよう。自分の心臓の音が田宮君に、聞こえそうな距離なの」
「アスファルトの通路に水溜りがあり、雨が小さな波紋となって重なりながら、消えているぞ」
「わたしは溜まった水を避けながら、足早になってしまう。吐く息には、恥ずかしさと喜びがあふれ、複雑な色が宿ってる」
ピンク色の息を出す。
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