小説語でドラマ制作

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「オレは、上空に広がる厚い雲に視線を注ぐ。傘をさしていても、雨が頬を叩くな。俺と帰れて嬉しいって、顔に書いてあるぞ」  女子高生は否定の言葉を出した。頬には水性ペンで、嬉しいな、田宮君のこと好き、と書いてあった。 「心を見透かしたような言葉に、わたしは、胸に手を当てて、深呼吸をする。肺の空気を入れ替える。雨は、ほのかな甘さを含んで、鼻腔をくすぐるの」 「俺たちの視線の先は、散ってしまった桜の木に重なっているぞ」 「春も終わりに近い。夏の足音が聞こえる季節。桜は来年も咲いてくれのに、さびしく姿を変える。明るい振りをしてても、引っ込み思案なわたしみたい。田宮君に歩調を合わせ、二人の歩みが緩やかになる。傘の端から水滴が零れ落ちる。上背がある田宮君の肩に、黒い染みがあった。わたしは、ハンドタオルをポケットから取り出す。田宮君の肩を、爪先立ちになり、軽く叩くようにしながら拭く」 「俺は足の動きが止まる。睫毛が長い、切れ長な双眸(そうぼう)を見据た」 「田宮君の優しそうな黒曜石のような瞳に、わたしの顔が映りこんでいる。直視できなかった。桜の枝木が雨で、小さく波打っていた」  聖矢(せいや)は、拭かなくて良いと伝えた。
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