/1. 友だち

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『どうだった?』  寝る前になって、アカネからLINEが飛んできた。 『美人だった』  即、既読がついた。 『だよねー、めちゃ美人』  ……空白。自分の部屋のベッドで丸まっているだけ。指を動かす気にもならない。 『あれ。もしかしてあんまり良くなかった感じ?』  見透かされているかのような追撃。アカネ、しつこい。また喧嘩したいの? ああ、もう。気分が乱れている。  だいたい、女性ホルモンを注射した後は身体が重くなるから、家に帰ったら早く休みたいのが本音だった。腕も痛いから、スマホの操作も辛い。  ちょっと考えて、結局、無難に誤魔化すことにする。 『そんなことないよー』『気さくで話しやすかったし』 『良かったー私らとは全然違うタイプの子だから心配してたのよ』  そりゃそうだ。だってあんなのギャルじゃん。いつもの私なら絶対接点持たないタイプじゃん。  ……私は、何をこんな機嫌を悪くしているんだろう。あのひとから嫌味をされたわけでもなければ、むしろ私に合わせて仲良くしてくれたというのに。 『ちょっとはあやちゃんの助けになるかなって思ったの』『だって私が言っても説得力ゼロだし』  さすがアカネ、打つのが早い。返信に手間取る私とは大違いだ。 『助け、って』『踏み切る助け?』  助け。もっと好きな服を着たい、化粧もしたい、家族から制限されたくない。私の願いを叶えるためには、私自身が一歩を踏み出す必要がある。 『そそー。やっぱ当事者同士、良い刺激になるかなーって』  あと、ブラジャーつけなさい――と、これはアカネやら婦人科の先生やらその他大勢からの意見。私は割とどうでも良いけれど。  アカネのお節介は時々、度が過ぎている。  まごついてばかりの私に、アカネは自分の知り合いを紹介してくれた。アカネから『もう完全に女の子』と評されていたその知り合いは、もはやそんなレベルをとっくに通り越していた。 『もうびっくりしたよ。女の人にしか見えなかったし、ホントに元男だったのって疑うくらい』 『そうそう』『ああも変われるんだって驚いちゃうよね』  良いか悪いかはともかく、強烈な刺激にはなっている。  曰く、アカネと夕夏はとある集会で知り合ったらしい。アカネは我が目を疑ったそうだが、その言葉に誇張はなかった。  肩まで掛けた毛布が温かくて、もう眠ってしまいたかった。注射した腕が痛んだ。クリニック特有の、あの微妙に不快な甘ったるい匂いが喉元から離れなかった。 『ごめん、もう寝るね。久しぶりに誰かと会話したから疲れちゃったみたい』  返信を待たずに、スマホの電源を落とした。
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