第六話

1/1
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

第六話

9c9f82d1-ecc5-4db1-b7f5-57acda8dd093 仰向けに横になって 頭を空っぽにしておく。 その際は両手を鳩尾あたりで組み合わせておく。 そのポーズだと 金縛りにも遭いにくい。 「無防備でありながらも、場を閉め切ってる」ような状態になるのだ。 全ての思考活動を停止させて 肉体の感覚だけに意識を向ける。 真行寺はいわゆる瞑想状態に入った。 「自分自身の息吹」の中に浸って、そこで揺蕩うような状態に。 こういった状態に入って頭を空っぽにしておくと、潜在意識の働きで無駄な情報が篩い落とされていくような気がするのだ。 それと同時に 自分の潜在意識を通じて集合意識の潜在意識領域にある『質問箱』へと質問を投稿しておくとでもいった感覚が起こる。 自己啓発などで語られる『引き寄せの法則』は、ある部分で真実だと言えるのだ。 人間達の意識は、無意識、潜在意識において繋がっている。 絶えず嫌いな相手のことを考え続けている人間が、ふと気がつくと「嫌悪感を催すものに取り囲まれる」のは Y○uT○beなどの動画サイトで 閲覧し続けたものの類似品が『あなたへお勧め』として表示されるようになるのと実は同じ現象なのである。 潜在意識は好き嫌いを理解しない。 なので 「意識にのぼらせ続ける」ことが 「関心があることなのだろう」 「研究対象なのだろう」 と認識して類似品をせっせと引き寄せてくれる訳である。 しかしこの摂理は特定の人々のメンタルを地獄に叩き落とす。 フラッシュバックが起こるようなトラウマを抱えた人間は絶えず「トラウマ体験の類似品」を引き寄せている事になる。 だからこそ多くの人間が 「自分の引き寄せたものを、他者に擦りつける」という心理的駆け引きを 無自覚なまま行ってしまうのである。 こうした「人々の顕在意識の裏にある事情」に関して或る程度明るい人間は インターネットを使いこなすかの如くに潜在意識を使いこなして「必要な情報を得る」ことが出来る。 だが自分がした質問に対して 潜在意識から返ってくる回答は 必ずしも正解とは限らないし そもそも「回答」自体が 象徴的かつ比喩的に現れる。 それを理解しておかないと「あり得ないような確率で起こる共時性や偶然の一致」をいざ体験した時に人は簡単に狂う。 情緒的な観点に慣れた人間にとっては 余りにも既存の認識から逸脱した事が起こる訳なのだから。 そうーー まるで 『此の世という空間』が 『VRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)仮想現実大規模多人数オンラインゲームの空間』 であったと知ってしまったかのような そんな「足元の心許なさ」を感じて 激しく動揺するのである。 なので人間が安定して此の世に存在し 此の世の相対的な在り方を安全かつ便利に利用し続ける為には知っておくべき事が幾つかある。 その一つとして「箍が外れると人は整合性を失って狂う」のだという事を知っておかなければならない。 秩序を手放す。 制限を手放す。 重力の影響から解放される。 それらは 『虚無に呑まれて存在性そのものが無かった事になる』ような そんな危うさと紙一重だ。 「存在していられるという事は文字通り有り難い(微妙なバランスの上で成り立っている低確率の状態)のだ」 人は瞑想状態の中で そうした真理に触れる。 だからこそそうした真理に朧げながらも触れる人間と、それを全く実感した事のない人間の意識の間には埋めようもない格差が生じてしまうのである。 真行寺はしばらくの間 そうして頭を空っぽにして 瞑想状態を持続させた後に ムクリと起き上がった。 捜査の再開である。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!