第八話

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第八話

b320a61d-c927-4fc8-870c-a47f6abbfc0e (スマホのマップアプリも録画・録音機能も便利だよな…) と真行寺は思った。 三丁目四番地の場所を確認した後 御手洗に電話して事情を説明しておく。 いきなり女の死体を発見する羽目になどならないと良いのだが こればっかりは判らない。 現場に行ってみないことには。 結局のところ 「残留思念を読んで事件や犯罪者の情報を得る」 という手法は社会的に正式に認知されている訳ではない。 「犯人が犯人である」 という確固たる証拠が無ければ 一般的ではない方法で情報を得ている人間は疑わしく見られるものである。 犯罪が行われる可能性のある、或いは既に行われた可能性のある場所へと乗り込む場合には とにかく録画・録音機能で犯人の情報を得る努力をしておくに限るのだ。 なので三丁目四番地の空きビルに着いたら 先ずは手袋をはめて次いでスマホの録画・録音機能を立ち上げた。 どうやら一階は昔は美容室のテナントが入っていたようだ。 ガラス越しに中を覗き込むと鏡、電動椅子があったらしい痕跡が壁と床に残っている。 さて撮影しながらビルの中に入ろうと ーーしたのだが …やはり鍵がかかっている。 建物の老朽化が進んで建て直すつもりでいるのに資金が無くて放置しているのか、或いは売りに出されていて不動産屋が管理しているのか、やはり一応管理はされているのだろう。 鍵が掛かってなくて部外者が簡単に中に入れるようなら世話はない。 しかし後ろ暗い連中が待ち合わせ場所にするくらいなのだから何処かに侵入口があるんじゃないのか? と思い、裏口に回る。 裏口も鍵が掛かっている。 しかし裏口の方には階段があって最上階の4階まで行ける。 (このビルの部屋の何処かに鍵が壊れている場所があるのか?) そう思い、 残留思念を拾いながら進んだ。 すると安っぽいコロンの匂いがした。 トイレの芳香剤のような安っぽいコロンの匂いだ。 ブランド品を真似た偽物のバッグが見える。 綺麗にマニキュアが塗られネイルアートの施された手が震えている。 ひどく怯えている時のような胸の動悸が不随意に起きた。 と同時に不安と疑心暗鬼で胸が押し潰されそうになる。 金を渡すだけで済むのだろうか… という疑いの思念が浮かぶ。 残留思念の落とし主が体験していたであろう激しい動悸とシンクロしたまま その思念の映像が導くままに 歩を進めると3階に辿り着いた。 昔は何かの事務所だったらしい場所のようだが。 そのドアノブを回すと 鍵は掛かって無かった…。 動悸は更に激しくなり、気が遠くなりそうな勢いだが、他人の残留思念にシンクロする事のリスクとは何度も向き合って来ている。 憑代(よりしろ)の自分と 審神者(さにわ)の自分。 双方に対する共感の比率を前者から後者に振り分け直すのだ。 それによって「恐慌状態に陥った何か」に引き摺られる事なく、事情を把握する事が可能になる。 そうやって気を落ち着けた所でドアを開けて中に入ってみた。 特に凶行が行われた痕跡は無かった。 男は女を殺すような事もなく女から金を回収して分かれたようだ…。 だが一体どんな事情があったのかという点は気になる。 何か手掛かりになる残留思念が無いか探しているとタバコの吸殻があった。 灰も落ちている。 女から金を回収して人心地ついて一服したという事なのかそこからは (やっと回収が終わったし、やっと落ち着ける…) といった感情が伝わってきた。 どうやら男にとって金の回収は仕事もしくは役目の一つだったらしい。 不意に女の顔が浮かぶ。 大した美人でも無いくせに自分ってのを勘違いしたんだろうなぁ せっかく日本人の男を誑かして結婚出来たのに、今度は旦那に保険掛けて、殺しを頼んでおきながらいざ保険金が入ると、依頼料も払わずに全額持ち逃げして、逃げ切れるとか思う所がバカ過ぎるんだよなぁ 所詮ピーナだからかなぁ… そういった思考が伝わってきた。 「…保険金殺人の仲間割れか?…」 真行寺は呟いた。 どのみち女の顔が判っただけでは殺された旦那とかいう被害者側の事が何も解らない。 そもそも保険金が下りたという事は 「殺人でありながら自然死に見せかけられている」 という事なのだろうし そうなると警察にもそれに関するデータは無いだろう。 真行寺にとってはお手上げ状態だ。 あのDVDの殺人にしても この保険金殺人にしても 「警察には何のデータも無い」事件なのだ。 真行寺のような探偵業の人間なら皆知っている事だが 「日本の警察は優秀」という話は真っ赤な嘘だ。 そもそもが「認知されていない殺人事件」は数知れない。 警察は「事件性がある」と見做した事件だけを事件として取り上げているのだ。 事件性が無いと見做された、或いは事件性が隠蔽された殺しに関しては長年に渡り大量に無視され続けている。 残留思念を読んだり故人に憑かれて心的残像を観せられたり、そういった特異な体験を日常的にしている者達にとっては 「日本の警察が捕まえてるのはいつも、本物の悪党や悪党組織ではなくて、悪党になりそびれた小悪党や、組織から蜥蜴の尻尾切りをされた尻尾の欠片みたいなものだ」 という事が判ってしまう。 結局のところ 暴力団などにしてもそうだ。 「祖国の特殊工作部隊から武器の配給が得られる組織」が他を圧して優位に立てるに決まってる。 本当の悪党達は後ろ盾自体が他とは違うのだ。 そうしたコネも後ろ盾も無いくせに ハッタリかまして悪びれて それでコネや後ろ盾がある連中と張り合えると思い込んでいる小悪党どもが 「日本の警察、ちゃんと仕事してますよ」 というフリをさせる為に猟犬達に追跡される狩りの獲物にされる訳である。 この保険金殺人の旦那殺しの女は 容貌からしてフィリピン系だろうか。 残留思念の落とし主の男が「ピーナ」と呼んでいた点からいってその可能性が高い。 結局のところ 「実際に殺しを自然死に見せかけてやってのけるような組織」 というのはかなり用心深くて証拠を残さないようにしている筈だ。 それが殺人だと立証されても逮捕されるのは、その女のみとなってしまうのだろう。 そして今度は 「どうして私だけが!」 と女が自己憐憫に浸って怒り出す。 日本は、日本人は、本当に悪いヤツをけっして捕まえない。 日本は、日本人は弱いものイジメが好きなんだ! と言い出す訳である。 結局のところ、日本人の男と結婚した外国人女性が夫に生命保険を掛けて殺す事件というのは、日本人同士の夫婦で日本人女性が夫に生命保険を掛けて殺す事件の発生比率と比較するならバカみたいに高い。 それは外国人女性の社交間では 「夫を殺して保険金を受け取ろうよ〜」 という悪魔の囁きが忍び込む比率が高い、という事を示している。 (外国人女性が日本人女性よりも邪悪だという事ではなく誘惑を受ける機会が多いという事だ) そうした悪魔の囁きを聴かせて実際に自然死に見せかけて殺しを行う。 そんな連中がそれこそ祖国の特殊工作部隊から武器の配給を受けながら活動している暴力団だったりする場合 そういった事態に向き合うのは それこそ「国のお偉いさん」「大金持ち」「(官僚を頂点とする)公務員」といった面々の役目だと思うのだが それらのクラスタの人間達が既に「日本人ではない」場合には… こうした事態は決して収束する事もなく、延々とエスカレートして持続していくのかも知れない…。 真行寺はタバコの吸殻がと灰を一応ビニール袋に収納しながら 暗澹たる気持ちで窓から外の景色を見詰めたのだった…。
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