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第四話
御手洗が訪ねてきた。
絵里から例のDVDの事を聞いて心配して来たようだ。
絵里は映像の中の犯人らしき男の顔をプリントアウトして持って行ってしまったので、それは御手洗も見せられたらしい。
犯罪者の顔写真を収めた警察のデータは度々ハッキングされているので
もしかしたら大幅にデータ改竄や削除が為されている可能性も無きにしも非ずだが
既存犯罪者の顔写真との照合は
そのデータを用いるしかない。
色々な意味でこの国の警察は
後手に回りながら仕事をしている。
当人達が無能だと言うより
暴力団と癒着のある連中がトップを務めているというのが
この国の各省庁の実態なのだ。
その傘下に有能な個人が複数存在していたとしても、そうした有能さが真の意味で生かされる事はほぼあり得ないのである。
真行寺も御手洗も
DVDに写っていた、女を殺したらしき男の顔が警察のデータの中の犯罪者の顔と照合できるとは期待していなかった。
「お前も大変だな。とんでもないものを送りつけられて…」
御手洗が真行寺の肩を叩いた。
「正直、なんで俺に?と思わなくもないが、送り主の残留思念からすると、今までにも何軒か送りつけては空振りしてきてるんじゃないかって気がした。
『どうせコイツも駄目なんだろう』って、こっちを見下してる感じと、諦めみたいな感情があったからな」
真行寺が送り主の残留思念を思い出しながら言った。
「へえ?それじゃ今まで送りつけられた奴らはDVDをどうしたんだろうな?」
御手洗が興味を持って尋ねた。
「そりゃあ、俺がやったみたいに観もせずに直ぐにゴミ箱に捨てたんじゃないのか?」
真行寺が言うと
「んで、そいつらにはゴミ箱を漁ってDVDを観るような妹はいなかった、という訳だな?」
御手洗が微笑んだ。
絵里と御手洗は『正確の不一致』を理由に別れたが、付き合っていた事がある。
御手洗にとっては絵里は今では『オカン属性の友人』という位置付けなのだ。
「ゴミ箱を漁られる、ってのは自室でやられるとかなりキツイぞ。十代の頃は特にそうだったな…」
真行寺が呻くと
「あ、なんか判る気がする…」
と御手洗が察した。
「それにしても映像から判るのが犯人と犠牲者の顔だけってのも不便だな。他に場所とかを特定できるものは写ってないのか?」
御手洗が尋ねるので
「俺もそう思ってな。映像に写ってる家具類に着目したんだ。
するとデザインから何処の家具メーカーのものかが判明したんだ。
件のメーカーの『M家具』に問い合わせて見た所、O市内の『Tホテル』の内装に使われたものだと判った」
真行寺が答えた。
「成る程。現場はO市内の『Tホテル』か…」
「しかも映像にはホテルの備品も写っていて、その備品類というのが発注先を固定してる訳じゃないんだよ。
出来るだけ安くて高品質なものを提供してくれる所を利用したいという事らしくてな。
そのお陰もあって備品の画像を見せれば、何年度に使われていたものかが判るらしい。
あくまでも年度単位だが時期も判る訳だ」
「服装からすると夏だろうな…」
御手洗も時期の特定に興味を持ったらしく、服装から季節を推理して言う。
「お前の方ではO市の『Tホテル』から死体が見つかった事が無いかを調べてくれないか?
ホテルの従業員に直接『このホテルで死体が発見された事がありませんでしたか?』と訊いても正直に答えてくれるとは思えないからな」
真行寺は苦笑して言った。
探偵は所詮、警察関係者ではない。
時折、捜査協力をする事があって
それなりに良好な関係を築いていても
探偵は探偵。
警察は警察。
民間企業が探偵に正直に質問に答える義務は無いのである。
「判った。他に行方不明者の情報から被害者に該当しそうなものが無いかも探してみる」
御手洗がそう言ってくれたので
「ああ頼む。そんなにO市から離れた住まいでも無かったろうからな。もしかしたらO市内の人間かも知れないな」
真行寺は少し肩の荷が下りた気がしたのだった…。
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