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悪い夢を見た。
ガラスの砂時計の砂が少しずつ上から下に落ちていく。
--もう沢山よ!
私は咽び泣きながら主に訴えた。
主はまた私を蹴飛ばして、写真を撮る。
パシャッという音がして鱗に覆われた全裸の私が保存されていく。
緑の鱗が青ざめ、私は必死に砂時計を壊そうとした。私の今の状態は全て砂時計のせいなのだ。
砂時計は近くにあるのに手が届かない。後3センチ…後2センチ…後1センチ…届いた!
手が砂時計を突き抜ける。透明なのは私の手だった。
写真を撮る音が後を絶たない。
その内、<取材>と名乗る人達が現れて、小さな店に押しかけて来た。
私はガタガタ震えていた。
暑さで生温くなった水を飲みに宿から降りる。もちろん、主が私なんかにふかふかの毛布など用意する訳が無かった。宿と言っても藁の中でくるまって寝ているだけだ。裕福な寝床などとうの昔に諦めている。
砂時計の姿を探した。
存在は知っているが、実物を触るどころか見たこともない。
怖い…。
この身体が成熟しきれば、見せ物として売られるようになるのだ。それは直観的に何となく分かっていた。
せめて、<バルブロ>を保護する団体の目に止まれば。
叶わぬ夢物語でも、人は思わず願ってしまうものである。
--私は人間だ!!
虎井は鼻でせせら笑うだろう。鯉柄は卑しい目で私を見るだろう。バーの常連客皆、きっと私を馬鹿にする。
人は見た目が8割とはよく言ったものだ。
私は嫌われ者だ。
生温い水と一緒にしょっぱい味を覚えた。惨めさの余りに泣いている。
悲劇のヒロインになるつもりは毛頭ない。ただ涙が私を癒した。
--神様…ッ!私の罪を浄化して下さい。
叶わぬ願いでも願ってしまうのだ。
--私は何をしたのでしょう?
答えなど、いらなかった。感傷的になる夜の帳が貼り付いて嫌になるだけだった。
私のメシアはどこにいるのだろう。
そんなことを盲目的に朦朧と考える。
今の状態はハッキリ言って劣悪だ。純愛小説の主人公達は生き生きと胸をときめかせて清潔な場所で生きている。少なくとも、主にいつ殴られるかビクついて生きてはいない。藁の上で寝もしなければ、腐った水で飢えをしのぎもしない。
誰が悪いという簡単な話ではない。
親を憎んで痛みが軽くなるなら、とっくにやっている。
肝心なのは--自分を信じて強く生きていく力だ。
私は不敵な笑みを浮かべた。
私がただの悲劇のヒロインではない理由はいつか『虎井を殺す』という明確な目的があるためだ。
いつかここを出る。
きっと刑務所の方がマシな生活ができるだろう。
悲しい人生。もし、私が人なら…。爬虫類の血が殺意に滾る。
私は人でありたかった。
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