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第二章
その日もバーの客の愚痴と罵倒の荒らしを浴びていた。
酔った客が財政がどうのこうの言いながら、私の腕や手足を殴りつける。
青アザの上から青アザが現れ、見たくもないグロテスクさの余り目を背けた。
木製のバーのカウンターは古ぼけてギシギシと痛み、私の心も締め付けられる。
いつか壊れる。
こんな生活長く続かない。
「もういい加減にして下さい!!」
両手でカウンターを叩き付け、グラスと酒のボトルが不安定に揺れた。
初老の男の前で本音を見せる。罵倒は浴びせて来ないが、煙草の臭いがキツかった。この後に来る折檻を想像してギュッと目を瞑る。
私は恐怖にガクガク震えていた。いつも通りだ。
長身で清潔感溢れる初老の紳士は目を見開いた後、驚きを隠してそっと私の頭を撫でる。
今度は私が驚きに目を見開く番だった。
「このことは内緒だよ」
私は老人をただただ瞳孔に映した。優しくされるのは初めてだった。5歳の頃、虎井が私を見た目と同じ感じだ。
「何で怒らないんですか?」
不信感顕な私に老人は優しく諭すように言う。
「何を怒るというのだ?君の名前を教えてくれないか?」
私は胃が萎縮する感覚を覚えた。
人でなければ日本国籍でもないのだ。
「アル…ル」
本名のアル・カ=ルルが出てこない。
だが、初老の紳士は気に入ったようだった。
「アルル、これからは私の接待だけをしなさい。欲しい物何でも持って来てあげるから」
私は人の優しさに飢えていた。
虎井が楽しそうにポーカーをやっているのをチラッと確認するとカウンターを越えて、白鳥に上目遣いでしがみつく。出来るだけ哀れに思われたかった。
思わず妄想が口を吐く。
「メシア?」
「違いますよ、お嬢ちゃん。吾輩は白鳥透(シラトリトオル)という者だ。こう見えて不動産会社の社長だよ」
私は偉い方に気に入られた実感を持てないまま、ワガママ承知で白鳥に懇願した。
「また頭を撫でて下さい」
白鳥の暖かい手がゴツゴツした私の頭の上を右往左往する。
初老の紳士は言った。
「私の娘も君と同じぐらいの歳なんだ。今年中に君を迎えに行くよ」
私は心の中で叫んだ。--メシアだ!メシアが現れた!!
その時にはスッカリ、白鳥という男に心を許していた。
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