水に住む家。

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 いくつもの部屋を通り抜け、昨夜食事に案内された部屋へと向かった。 テーブルの上にはおいしそうな朝食がいくつも並べられ、正座して新聞を読んでいた紀は三井に気がつき「どうぞ」と声をかけた。 「朝からすごいごちそうですね」 「ついはりきって作りすぎてしまいました」  お櫃から湯気を立てたまっしろなごはんがお茶碗によそわれる。普段の三井なら朝の食事はコーヒーくらいでいいと手抜きばかりだが、こうやって食事を作ってもらえると現金なものでおなかがぐうっと音を立てた。 「健康な証拠ですね。たくさん食べてください」 「…いただきます」  恥ずかしさをこらえ箸をつけると昨夜同様滋深い味が体中を満たしていく。こうやって紀の食事を食べると細胞から元気になっていく気がするのが不思議だ。きっと丹精込めて食事をつくってくれているからなのだろう。 「三井さん、お時間はまだありますか?」  あらかた食事を片付けたころに、紀は三井に問いかけた。 「もし、お時間があればもっとゆっくりしていきませんか?それに、ひおと出会った海もこの近くなんです。よければドライブがてら案内しますが」 「いいんですか?」  願ってもない提案だった。  もちろん、本物の人魚であるひおに出会えたことが何より一番の収穫である。だけど何も知らないといえば知らないのだ。  まだひおと一緒に過ごしたかった。  そして、紀とも。 「ぼくはたくさん時間がありますけど、紀さんは…」 「大丈夫ですよ、こうやって三井さんが一緒にいてくれて楽しいですし。ひおのことも、もっと知ってほしいですしね」 「では、遠慮なく」  厚かましいかと思ったけど、ここまで来たら一緒だ。甘えきってしまおうかと三井は心を決めた。 「よろしくお願いします」 「はい。では食事が終わったら車で出かけましょう。案内します」 「ありがとうございます」  長年一つのことを研究してきた人だということで、もっと気難しい人を想像していたけどそんなことは決してなかった。三井の知っている誰よりも優しく親切なくらいだ。
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