① 新人はホイホイ?

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たしかに、どれほど強大な魔力を持っていても、魔法の発動理論を正しく理解していなければ何の役にも立たない。 銀色であっても、魔法教育を受けていなければ水滴の1つも生むことはできない。 しかし。 「2級冒険者の資格持ってる奴が言うセリフじゃないな」 「別に取りたくて取った級位じゃないよ。世間の不満に応えるために、仕方なく」 「それでも、2級に余裕で受かるくらい魔法を扱えるってことだろ?体術も剣術も全くできないくせに」 「そりゃ、銀色だからな」 「社長なんか関係なく、お前は有名人で、あの子は注目されやすい」 ふう、とため息をついたシロイを労わるように優しい口調でロキが続ける。 「あの子の添乗課配属を快く思ってない奴も多いんだ。ちゃんと守ってやれよ? 本当に怖いのは、魔物よりも人間かもしれない」 「……わかってるよ」 何故あの子を採用したのか。 何故、彼女の希望を通してしまったのか。 採用したとしても、結界外に出なくて済む事務方の仕事ならいくらでもある。 どうしても外に出たいなら、企画課に配属する道もあったはずだ。 企画課は、ミライ旅行社が主催する全てのツアーを考案しており、関係各所との交渉や宿泊先との値段交渉から仕入れまで、ツアー催行に必要なあらゆる決め事を担う部署である。 企画課員となれば下見や視察で結界外に出ることにはなるが、それならば客を連れずに済むし、何より警護依頼を受けた冒険者と共に自由に動き回れる。 その先で何があろうと、何が出ようと、守秘契約をきちんと結んでいれば冒険者の口から何かが語られることもない。 そういうやり方だって、あったはずなのに…… 「そういえばお前さ、今日やっとミソラって呼んであげてたな。しかもいいなり呼び捨てで」 がらりと軽い口調にかわったロキに、考え耽っていたシロイが面食らった顔をした。 ロキの顔がにやにやといたずらっぽく笑っている。 「……僕が?」 「覚えてないのか? お前、みんなの前でミソラって呼んでたぞ」 右手でパシッと口を押さえる。 その顔がみるみる赤くなっていくのを、ロキはますます面白そうな顔で見つめる。
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